画期的ながん治療薬、費用は1人年間3500万円!驚愕の高価格になる製薬業界の異常な慣習
がん治療薬が高額になるワケ
一方、製薬会社にしてみると、微生物や細胞を培養してつくる高コストな「生物製剤」が増えていること、大規模な臨床試験などで研究開発費が膨らむことなど、「適正な価格」が認められなければ先進的な新薬開発は難しいと主張しています。
厚生労働大臣の諮問機関で、2年に1回診療報酬を決める中央社会保険医療協議会(中医協)のなかに、事実上薬価を決める「薬価算定組織」の会議がありますが、これは非公開で行われます。非公開の理由について、厚労省は「企業秘密が絡むため」としていますが、客観的に正当に薬価が決められたのかどうか、私たちにはまったく見えてこないのです。
オプジーボの場合、2014年に薬価を決定する際には、最初に承認されたメラノーマ(悪性黒色腫)の対象患者数を470人と見込んでいました。これだけの患者数の使用でも開発費を回収できるよう、その薬価は極めて高く設定されたのだと思います。
しかし、昨年12月に「非小細胞肺がん」にも適用が拡大され、その対象者は数万人に膨らんだのです。販売元の小野薬品工業の16年度の売り上げ予想は1260億円で、当初メラノーマで承認申請した際の予想の40倍にもなっています。対象患者数が増えたからといって、すぐに薬価を見直す仕組みはありません。
ちなみに、オプジーボは胃や食道、肝臓などのがんに対しても治験が進められており、腎臓のがんについては年内に承認される見込みとなっています。また、ほかの製薬会社でも同様の仕組みの薬で、申請や治験を進めています。
製薬会社としてはそれほど大きくない小野薬品工業が、世界のメガファーマと呼ばれる売り上げ3兆円以上の製薬会社に先駆けてチェックポイント阻害薬を開発し、その市場においてトップに躍り出たことは画期的なことです。株式市場でもオプジーボは高く評価されており、小野薬品の株価は上がり続けて現在は1年前の倍以上となっています。
さらに、薬価が高くなる理由として、抗がん剤市場の規模があります。実は、抗がん剤の市場は降圧剤などと比べて大きいわけではないのです。
たとえば、高血圧の患者は日本中に1000万人いるともいわれていますが、継続的な治療を受けているがん患者は150万人程度です。高血圧の患者が全員薬を飲んでいるわけではありませんが、一度降圧剤を使い始めると、ほとんどの方は亡くなるまで薬を飲み続けます。つまり、10年も20年も服薬が続くのです。
しかし、抗がん剤では多くの場合、がんの消失または患者の死亡によって使用が終わります。抗がん剤は、その毒性により重篤な副作用も多く出現するので、5年も10年も抗がん剤を使用することはほとんどありません。
つまり、少ない対象者、短い使用期間でも経費を回収できるだけの価格をつけなければならないために、薬価はおのずと高くなってしまうのです。
このような理由から、オプジーボは100mg瓶1本で72万9849円という高額な薬価となったのです。次回は、オプジーボが今後、日本社会に及ぼす影響について考察します。
(文=宇多川久美子/薬剤師・栄養学博士)