若い独身女性が中年の既婚男性と恋に落ち、やがて本気になった女性が男性に離婚を迫り、苦悩する――。
かつて、不倫といえばそんなイメージが大半を占めたが、現代では既婚で子持ち、さらに自らバリバリ働く30~40代の女性が婚外恋愛にハマり、冷静に淡々と不倫する現実があるという。彼女たちから出てくるのは、こんな言葉だ。
「私は離婚する気はない。いつまでセックスをできるかわからないんだから、できるときにしようと思う。結婚とセックスは別物なのに、一緒に考えすぎ」
「昭和60年代後半から平成生まれの男子って、性格がまっすぐで、私たちアラフォー女性をおばさん扱いしない。そこが魅力だと思います」
「バレても私には経済力があるし、慰謝料を請求されても、不倫の慰謝料なんてたかが50万~100万円。決して安い金額ではないけれど、それで自由になれるなら安いものだと考えてた」
これらは、今年6月に出版された『不倫女子のリアル』(小学館/沢木文)からの一節である。今、既婚女性たちに何が起きているのか。都市型不倫の現況について、著者の沢木文氏に聞いた。
不倫女性の共通点「4K」とは?
–本書では9人の不倫女性のケースが紹介されていますが、取材では30人ほどの不倫経験のある女性から話を聞いたそうですね。
沢木文氏(以下、沢木) そこで浮かび上がってきたのが、「4K」というポイントです。不倫女性には「稼ぐ女」「キレイな女」「軽い女」「堅実な女」という共通項があります。それぞれ、詳しくは本書を読んでいただきたいのですが、背景には「女性の男性化」があると思います。
一昔前は、いわゆる“エビちゃんOL”がモテた時代でした。彼女たちの目標は、合コンなどで愛玩されることでいい男性を見つけ、結婚したら専業主婦になることです。しかし、一方では自立の道を選び、仕事で嫌なことがあってもじっと耐えて生き抜く女性たちも増えました。
–「稼ぐ女」に通ずるポイントですね。本書には、医師や年収1000万円の会社経営者など、経済的に自立した不倫女性が多く登場します。一方、「キレイな女」というのは、必ずしも美人という意味ではないのでしょうか。
沢木 もちろん、容姿の美しさもありますが、仕草や考え方の美しさも含まれます。実際、驚くほど“普通のおばさん”が次々と不倫を楽しんでいる現実があります。ぽっちゃり体型で垢抜けない服装、“昭和のお母さん”のような雰囲気で、いわゆる“美魔女”とは正反対のタイプです。しかし、清潔感や品の良さがある点は共通しています。
結婚後に男性経験が7倍になる人妻も
–そうした既婚女性が不倫にハマるのは、どういった流れなのでしょうか。
沢木 もちろんケースバイケースではありますが、子供が3~4歳になって多少手が離れると同時に自由な時間ができる時期が多いです。すでに結婚から数年たっており、恋愛のフワフワした気持ちを味わいたいと思う。また、夫とセックスレスになっていれば、男から欲情される喜びを味わいたいと思う。
夫との生活はもはやルーティンであり、今はSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)もあるので相手選びには困らない。お金も持っている。そこで、いざ不倫に踏み切るか否かは、女としての「自信」があるかどうかが大きいですね。
–また、「人妻のほうがいい」という男性も増えているため、需要もあるというわけですね。
沢木 結婚を迫られる心配もないから、「既婚者のほうが後腐れがなくていい」という男性はたくさんいます。もちろん、結婚相手となれば真剣に選びますが、単なる恋愛相手なら気軽に遊べる。言葉は悪いですが、使い捨てのようなものですから。
女性側とすれば、夫は信頼と安心をくれるけれど、甘やかな情感をくれるのは恋人だけ。人間はないものねだりなので、信頼と安心が確保されれば、今度は甘やかな情感を欲してしまうわけです。
–沢木さんは前著『貧困女子のリアル』(小学館)で、高収入なのに貧困に苦しむ女性の共通点について「幼児的万能感」と指摘していますが、不倫女子の精神面には、どんな共通点がありますか。
沢木 やっぱり「私を見て」「かまって」「女として扱って」という欲求でしょうね。また、出会って2、3回など、お互いをよく知らないうちに行動してしまうのも特徴です。仲良くなりすぎないうちに、恋愛感情がフレッシュなうちに踏み切るから、盛り上がるわけです。
あとは、「待つ」ことができるから向こうから声をかけさせるのがうまかったり、「わかんない」「知らない」「教えて」「守って」を醸し出す“昭和のぶりっ子”気質だったり、という点もあります。一方で、男性化しているとはいえ、「女子である」ということに関しては、強い芯と揺るぎない価値観を持っていることも共通しています。
–本書に登場する既婚女性のほとんどが、結婚前より後のほうが男性経験が増えており、なかには7倍以上(2人→15人以上)というケースもありました。
沢木 しかし、共通しているのは、婚外恋愛をつまみ食いするものの、結局は夫や家庭を大事にしているという点です。また、不倫したことで余裕が生まれたり満たされたりした結果、夫に優しくできたり家庭がうまく回ったりするケースもたくさんあります。
世の既婚女性は家事や育児に追われる上、仕事をしていれば目まぐるしいほど忙しい日々を送っているため、「私ばっかり損している」と思っているケースが多い。そこで、世間的にNG行為とされている不倫をすると、夫に仕返しをしたような気分になり、それまで鬱積していた負の感情が清算されるのです。そして、あくまで自分のなかでだけの問題ですが、心がリセットされて晴れやかになるのです。
10人と不倫の人妻、避妊せず性感染症に
–本書でも、「人生の辛い部分を押し付けられた」と怒っていた女性が「浮気は悪」という観念を捨て、元カレとの浮気を皮切りに10人と不倫を重ねた結果、夫との関係が良好になったというケースがありました。避妊をしていなかったため、性感染症に感染するというピンチもあったようですが……。
沢木 彼女の場合は、不倫を重ねることで「安・近・短」という自分なりの条件をつくり出したのですが、これは賢明だと思います。ある程度、お互いの人間関係を知っている「安心」な相手で、仕事やプライベートで関係が「近い」。そして、情が移らない程度の「短い」期間で終わらせるというものです。このように感情のコントロールができる人は、バレずにうまく不倫をしています。
もともと、多くの既婚女性に不倫願望があるのだと思います。でも、いろいろな制約や日々の生活のなかで、夢見るだけで終わってしまう人がほとんど。だから、タレントの不倫騒動があった時に、当事者でもないのに異常なほどのバッシングが起きるわけです。それはやっかみから生まれる糾弾であり、実際に不倫をしている女性たちは、意外なほどあっさりしています。
–夫側の心構えとしては、どんなことが必要なのでしょうか。
沢木 「うちに限って、そんなことあり得ないよ」「俺の奥さんなんか、誰も相手にしないよ」という考えは捨てることですね。夫にとっては見慣れた相手かもしれませんが、人からはぽっちゃり体型が肉感的に見えるかもしれないし、謙虚な姿勢がかわいらしくて献身的な女性に映るかもしれません。
そもそも、男性の賞味期限は40代前半で終わってしまうケースが多いと思います。容姿や性的能力も衰えてきて、お金がなければ異性からは見向きもされなくなる。一方、その年代の既婚女性は独特の色気があって、ダイエットやメイクで容姿を維持することができる上、今は人妻好きの男性も多い。
専業主婦で生活をすべて夫に依存している場合は「不倫がバレて離婚」となれば痛手ですが、男性化した不倫女性たちには人間的な魅力と経済力があります。そのため、離婚されても痛くも痒くもないどころか、夫婦でローンを担うなど家庭の共同経営者になっていることも多いため、別れたら立ち行かなくなるのは、むしろ夫のほうというケースも多いでしょう。
ただし、いきなり優しくしたりすると気持ち悪がられるかもしれないので、仮に不倫を疑うようなことがあっても、まずは静観の構えがいいと思います。先ほど述べたように、不倫しているとはいえ家庭優先の女性が多く、特に子供がいる場合は、いずれ夫のもとに帰ってくるケースが多いですから。
(構成=編集部)
『不倫女子のリアル』 愛されたい女たちの逆襲がはじまった!? ベッキー、宮崎謙介、桂文枝、乙武洋匡……。世間を騒がし、社会問題となりつつある“不倫”。今や芸能界以外でも不倫は横行、特に働く女性が主導権を握るケースが増えている。女性はなぜ不倫に走るのか。不倫するとなぜ世間からディスられるのか。円満な家庭でも不倫のリスクはあるのか。女性の社会進出とともに価値観や倫理観も変わってきた。実際に不倫をしている30~40代の女性へのインタビューを通して、都会型不倫の現況と社会的背景を探る。