既婚女性の婚外恋愛について取材を続けて、3年ほどになる。首都圏近郊に住む100人以上の既婚女性から性愛にまつわる話を聞いたが、そのうち80%以上がセックスレスだと感じる。セックスレスが原因で不倫して、夫から離婚されてしまったという女性は多い。また、不倫から離婚し、貧困女子に転落してしまったという人も少なくない。
男女平等の時代とはいえ、女性の賃金は男性にくらべて低い。2015年に厚生労働省が発表した「賃金構造基本統計調査」では、男性の賃金を100とした場合に女性は70.2%という結果が出ている。長年続く構造は、簡単には変わらない。それに、女性が男性社会で働き続けるのは、女性という性の特徴(調和を大切にして競争が嫌い)を考えても負担が大きいのでは、と感じることもある。
また、女性が非正規雇用であれば、この賃金格差はもっと広がるだろう。筆者は『不倫女子のリアル』(小学館)で高収入女性の不倫事情を取り上げたが、なかには低収入の人も多かった。
その代表的な例が、2年前に離婚し、現在38歳で派遣社員をしている中村ミユキさん(仮名)だ。彼女の年収は200万円を切っており、東京・江戸川区内の実家に在住。両親は小さな会社を経営しているが、従業員の給料も満足に支払えないほど生活はひっ迫している。バブル期に購入した自宅は借金の抵当に入っており、ミユキさんは両親の会社の運転資金のために、なけなしの貯金100万円を差し出したばかりだという。
筆者が2年前に彼女と出会った時、彼女は結婚していた。名門私立大学の同級生婚で、夫は官公庁に勤務。彼女は、結婚を機に勤務していたIT関連会社を退職した。そして、半年間の専業主婦生活を経て、ある製薬会社の契約社員になった。
当時の世帯年収は、1000万円をゆうに超えていた。結婚と同時に東京・豊洲のタワーマンションを購入。筆者は遊びに行ったことがあるが、遠くに東京湾が見える眺望抜群のリビングに、ハイブランドの家具が揃えられていた。そのリッチで優雅な都会生活を心から羨望して称賛すればするほど、ミユキさんは「自分は不幸だ」と繰り返していた。
排卵期だけ、真っ暗闇で嫌々セックス
しかし、そんな生活はあっさりと終わりを告げる。結婚3年目、同僚の男性と不倫していたことを自ら夫にバラしたのだ。
「不倫相手の彼は、パッと見はカッコ良くないけど、自分の魅力をよくわかっていて、女性に『彼の魅力は私にしかわからない』と思わせるタイプです」と語るミユキさん。さらに、不倫した背景について続けた。
「交際2年、結婚3年、元夫とは家族になっちゃったから、お互いにもう無理だったんですよ。結婚生活の末期は『子供を授かれば一発逆転するだろう』と、排卵期にだけセックスしていました。当時は、真っ暗闇にしないと、その気にならないし、痛いし……。一刻も早く射精してほしくて、嫌々していたこともあったんですよね。
そんな時に彼が登場して、夢中になってしまった。彼はサーフィンが好きで、神奈川県のマンションでひとり暮らしをしていました。関係が始まってからは、家に泊まって料理をしたり、掃除をしたり……あの時が最高に幸せだったのかもしれません」
結果的に、ミユキさんは不倫相手のことを本気で好きになってしまい、夫に「自分は不倫している」と告白する。
「なんでそんなことをしたのか、今ではまったくわからないし、後悔しています。おそらく、夫のことを『無趣味でつまらない男』と思いながら、『私とは離婚しないだろう』とナメていたんだと思います。
でも、即座に『別れよう』と離婚届を出されました。しかも、2名分の証人欄にサインがしてあって、そこには私たちの同級生の名前が並んでいました。夫は、私の不倫に気付いて用意していたんでしょうね。私が新しい恋にフワフワしている間に、夫は足場を固めていたんですよ」
その後、1週間ほどで元夫と暮らすタワマンを出て、不倫相手と同棲しようとするが、「重い相手は無理だし、僕は誰とも付き合う気はない」とフラれてしまい、実家に身を寄せる。加えて、彼と不倫したことが社内に知れわたり、契約社員で仕事熱心ではなかったミユキさんは退職を余儀なくされる。
「会社は自由恋愛だからいいのですが、退職したのは人間関係からです。彼は『誰とでもする男』として、会社の女性から『キモい』とバカにされている人だったんですよ。そんな男性と深い仲になって離婚までしてしまった私は、侮蔑と嘲笑の対象になりました。その孤立感は、ハンパじゃなかったです」
恋愛経験の少ない妻は不倫に走りやすい?
ミユキさんは、『官公庁勤務の夫がいる契約社員』だったからこそ、会社で大切にされていた。しかし、その“見えない看板”がなくなったらどうなるかということには気が付いていなかった。
たった1回の不倫で離婚する……そういう経験がある女性の話を聞いていると、共通するのは結婚前の恋愛経験が少ないことだ。そして、交際相手を“自分の理想”という型にはめようとする。その緩慢な暴力ともいえる支配が、夫婦関係を静かに硬直させて、やがて不倫へと向かわせるのかもしれない。
(文=沢木文/ライター)
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