植物は葉から水分を蒸発(蒸散)させるため、葉において細胞液は濃縮される。そのため、細胞液の濃度を下げようと外部(例えば、枝の方向)から水を吸い上げようとする。一方で、根における細胞液は濃度が最も低くなっているが、それでも、土壌中の水よりは濃度が高く、やはり浸透圧の原理で水を吸収していく。つまり、根、幹、枝、葉という順番で、高い位置に存在する細胞液ほど濃度が高くなっていき、それによって水を吸い上げるポンプ機能が生まれているというのが一般的な解釈である。なお、幹や枝においては、水の凝集力、わかりやすくいえば、水分子同士が引っ張り合う表面張力も関係している。
体液の循環に重力も関与している?
だが、フレッチャー氏はそのような解釈に加えて、重力の効果も寄与しているのではないかと考えた。つまり、葉において細胞液の濃度が高くなるということは、細胞液の密度が高まり、最も高まった地点からは重力で下向きに落ちていく効果が加わる。その際、水の凝集力が後続の水を引っ張ることになる。下向きに流れる細胞液は上向きに流れる細胞液よりも常に濃厚となっていて、根において土壌から吸収する水で再び薄められる。このように、重力は浸透圧による作用を助け、循環を促すと考えたのだ。
フレッチャー氏はこれを人体に当てはめてみた。
例えば、肺循環において、心臓から出た血液は肺の毛細血管に入り込み、呼吸で二酸化炭素を放出して酸素を取り込むと同時に、水分も蒸発させるのではなかろうか。それで、血液は肺を通る際に濃縮される。また、体循環においては、例えば腎臓に流れ込む動脈血は、静脈に出ていく静脈血よりも濃厚になっている。そこに重力の効果が加わって、心臓のポンプ機能を助けているのではないかというのだ。
我々が垂直に立ち続けている場合、重力は血液の循環を妨げる傾向はある。この点に関しては、脚が疲労するだけでなく、浮腫んでくるなどの症状からも、理解しやすいだろう。だが、水平に寝続けても、我々の健康維持は難しい。寝たままでは体を動かすことはできず、食事においても消化に問題を及ぼすだけではない。
例えば、NASA(米航空宇宙局)では宇宙飛行士を訓練したり、健康状態の変化を調べるために、ヒトを横に寝せて、頭の位置を上下させるなど、さまざまな実験を行ってきた。そして、頭を下げるだけでなく、体を水平に維持するだけでも、退化的な変化が起こることを確認している。長期床に臥してしまうと、なかなか病気から回復できない現実からも想像がつくように、体を横にした状態が維持されると、我々は健康を害するのである。