30~50代の運動不足、生涯の健康期間を縮める危険…意図的な運動、人生を大きく左右
年齢による身体能力の衰えは、予想外に早期から始まっている可能性があります。
米デューク大学医学部(ノースカロライナ州ダーラム)のキャサリン・ホール博士の研究チームの報告『Hall KS, et al. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2016 Jun 29.(Epub)』が6月29日、米医学誌「Journal of Gerontology: Medical Sciences」(オンライン版)に掲載されました。
本研究は30代から100歳以上までの成人775人を対象として、日常生活におけるシンプルな動作(歩行・片脚立ち・椅子からの立ち上がりの反復動作など)を実施し、身体能力に関する機能評価を行いました。その結果、「最初に衰えるのは片脚立ちか、椅子からの立ち上がり身体能力であり、50代からすでに衰えが認められた」と、筆者のような同世代の人間にとっては非常にショッキングな事実を報告しています。身体能力の衰えの前兆は、50代早期からすでに認められていると報告しているのです。
今回の報告結果を鑑みると、平均寿命延伸でなく「健康寿命延伸のための秘策」としては、いかに若い頃から身体能力を高めるための戦略を取るか、それをいかに維持するかが、課題解決の重要な鍵となると考えられます。
この研究成果は、本連載の第1回および、第2回の内容を裏付けるものです。つまり、単なる予防医療ではなく、戦略的な先手必勝予防が健康寿命延伸の鍵といえます。
その一方で本報告の著者も述べている通り、特に50歳前の早期から適確なセルフケア的努力をしながら定期的な運動をすることにより、ある程度の健康維持は可能と思われます。しかし、仕事第一主義の日本人にとって、30~50代はいわゆる働き盛りで仕事に生き甲斐を見いだす時期でもあり、健康を疎かにしがちな時期でもあります。
従って、「健康はまさに、転ばぬ先の杖」と念頭に置き、老化はすでに50代早期から始まっているのだという自覚の下に、ほんのわずかな時間でもよいので、定期的な運動、たとえば散歩をまず手始めに、徐々に速歩へと運動負荷を高める努力をしましょう。まずは、やはり「意識付け・行動変容」が重要です。
(文=福沢嘉孝/愛知医科大学病院先制・統合医療包括センター部長・教授<AMPIMEC>)