参考になった樹液の循環システム
世の中にはさまざまな健康法が存在する。だが、それらを始めて続けるに当たって、手間、根気、勇気、出費などを要するものも多い。もちろん、そんなことでためらうようでは、自分の健康を真剣に考えていないだけだということになるのだろうが、差し迫った状況に直面していない限りは、億劫に感じられる人々も多いのではなかろうか。
近年、注目されつつある健康法で、そんな方々にとってぴったりのものがある。それは、機械工学を専門とするイギリスのアンドルー・フレッチャー氏が1990年代半ばに開発したIBT(Inclined Bed Therapy)、すなわちベッド傾斜療法である。必要なものは、コンクリートブロック、レンガ、材木、電話帳など、丈夫で厚みのあるものならなんでも構わない。IBTは、頭が高くなるようにベッドの脚を持ち上げ、傾斜させて寝るだけの健康法である。
だが、その効果は絶大で、循環器や呼吸器の病気をはじめ、糖尿病、アルツハイマー病、パーキンソン病、多発性硬化症(MS)、脊髄損傷、脳性小児まひ、静脈瘤、慢性静脈不全、下腿潰瘍、乾癬、不整脈、不眠症、偏頭痛、浮腫、頻尿など、さまざまな病気が改善するとされる。
1997年の国際フェアで注目を浴びるようになったIBTは2000年、健康改善に大きな効果をもたらす健康法としてイギリスのテレビニュースでも報道された。そのなかで、背部損傷でほとんど足を動かせなくなり、10年間車いす生活を余儀なくされてきた男性が登場し、IBTを試してみると、まもなく立ち上がれるようになり、歩行訓練を始めつつある事例が紹介された。
フレッチャー氏がIBTを開発したきっかけは、樹木における水の循環に関心を抱いたことに遡る。彼は、背の高い樹木がいかに水を根から葉へと持ち上げるのかという一方向だけではなく、下に降ろしていく方向も含めて、いかに循環させるのかということに注目した。
植物の細胞は細胞液で満たされていて、それを覆う細胞膜は半透膜となっている。水や小さな物質は通すが、大きな物質は通さない。細胞液の濃度が高いと、外部から水を吸収しようとし、濃度が低いと、外部へと水を放出させる。