カキの殻は超万能薬!心身ともに健康増進
カキはしばしば「海のミルク」と呼ばれますが、それはクリーミーな食感とアミノ酸やミネラルを豊富に含む食品であるためです。それにもかかわらず、カロリーは身4~5個分の100グラムで60キロカロリー程度と牛肉の数分の一しかない低カロリー食品です。
「牡蠣よりは海苔をば老の売りもせで」(松尾芭蕉)
これは、老人の行商人にとっては重いカキよりも海苔(「法=守るべき行いやその教え」との掛詞)のほうが商売をするにはいいのではないか、という芭蕉の句です。
殻付きカキの重さは百数十グラムもありますが、身の重さは20グラム程度しかないので、殻付きカキを手にしたときのずっしりとした重量感は、ほぼすべて殻の重さです。それもそのはず、カキの殻は炭酸カルシウムが主成分でリン酸やケイ酸からなる岩のような物質なのです。ですが、この殻は単なる岩ではなく、古くから生薬として用いられてきました。
カキの殻は「ボレイ」と呼ばれ、漢方薬として服用すると、制酸作用による胸やけや慢性胃炎の抑制、食欲不振の改善、不眠症や液晶ディスプレイの見すぎによる眼精疲労、仕事のストレスで高ぶった神経を鎮めることにも効果があります。ボレイだけで現代のビジネスパーソンが抱える体の悩みの多くに対処できるわけで、優れた生薬なのです。
カキの殻を薬として利用していた歴史は古く、6世紀に成立した中国の医薬品事典『神農本草経』にも収載されているほどです。ボレイは市販の漢方胃腸薬に含まれているので、生ガキとワインを楽しんだ後に漢方薬を飲めば、まさにカキを丸ごと楽しんだことになり、仕事の疲れを癒して心身ともに健康増進につながるのではないでしょうか。
(文=中西貴之/宇部興産株式会社 環境安全部製品安全グループ グループリーダー)
【参考資料】
「『日本薬局方』ホームページ | 厚生労働省」
『マギー キッチンサイエンス -食材から食卓まで-』(共立出版/Harold McGee 著、香西みどり監訳、北山薫、北山雅彦訳)
『食べ物はこうして血となり肉となる~ちょっと意外な体の中の食物動態~』 野菜を食べると体によい。牛肉を食べると力が出る。食べ物を食べるだけで健康に影響を及ぼし気分にまで作用する。なんの変哲もない食べ物になぜそんなことができるのか? そんな不思議に迫るべく食べ物の体内動態をちょっと覗いてみよう。