「酔い止め薬を飲み続けると、身長が伸びる」
こんな話がインターネット上で広まっていることをご存じだろうか。掲示板サイトなどには、実際に酔い止め薬を数カ月間飲み続け、「身長が数センチ伸びた」という報告が複数上がっている。
その真偽はともかく、このような本来の目的とは異なる薬の服用には問題があるのも事実だ。専門家も、「市販薬の間違った飲み方によって、思わぬ副作用で苦しむ危険性がある」と指摘している。
「薬で背が伸びた」はただの思い込み?
「一般用医薬品(市販薬)の酔い止め薬で背が伸びるという噂には、一応根拠があります」。そう語るのは、『その薬があなたを殺す! 薬剤師が教える“知らないと毒になる”薬の話』(SBクリエイティブ)の著書を持つ薬剤師の小谷寿美子氏だ。
「2013年に名古屋大学大学院が行った研究では、『メクロジン』という成分を投与することによりマウスの骨が伸びた、という結果が発表されました。メクロジンとは、乗り物酔いに伴う吐き気やめまいなどの症状に効果がある成分で、市販の酔い止め薬に配合されています」(小谷氏)
この研究によると、メクロジンは『成長軟骨』という部分の異常により、低身長や四肢が短くなるなどの症状が引き起こされる『軟骨無形成症』の治療に対して有効な成分として期待されているという。ただし、現段階では臨床実験の結果は得られておらず、人体に用いた場合の効果や有効な投与量などはまだわかっていない。
「そのため、ネットに上がっているような『身長が伸びた』という体験談は、『これを飲めば背が伸びる』という思い込みからくるプラセボ(偽薬)効果の可能性が否めません」(同)
問題は、こうした間違った服用法がただの勘違いでは済まずに人体に危険を及ぼす可能性があることだ。小谷氏は、薬とは切っても切れない副作用の問題について、こう指摘する。
「一部の市販の酔い止め薬には『スコポラミン』という成分も配合されていますが、このスコポラミンには、排尿困難や散瞳(光を強く感じてしまう症状)などの副作用があります。つまり、身長を伸ばそうとして酔い止め薬を多量に摂取すると、思わぬ影響を受けてしまうといった事態も考えられるのです」(同)
咳止め薬をドラッグ代わりにして依存症に
本来の目的とは異なる市販薬の服用法は、これまで何度も問題になってきた。たとえば、1980年代に社会問題となり、現在も一部で行われているのが、咳止め薬をドラッグ代わりに飲むというものだ。
『その薬があなたを殺す! 薬剤師が教える“知らないと毒になる”薬の話』 風邪薬、頭痛薬、湿布などの薬ですが、使い方ひとつで、効果が減るどころか、死にいたる可能性すらあります。しかも、薬の副作用の報告例で最も多いのは、「風邪薬」(総合感冒薬)なのです。「クスリ」とは、ある意味リスク。薬剤師だからこそ知っている身近な薬の危険な使い方・効果のある使い方を紹介します。