日本では認知度が低いが、世界的に有名なダイエット薬「ゼニカル」をご存じだろうか。
アメリカでは肥満治療薬として認可され一般利用されているが、日本では厚生労働省の認可が取れていないため、一般販売はされていない。しかし、一部のダイエット外来を受け付けている病院では、処方されることもあると聞く。
「わざわざ病院まで行くのは面倒」という人は、個人輸入という手もある。しかも、病院で処方されると1粒500円前後だが、個人輸入なら同100円程度で手に入る。
ただし、医師の処方を受けていない個人輸入では、何が起きようと個人の責任だ。そんなトラブルを避けようという意思が働いたのか、一時期、インターネット上では「ゼ○カル」などと伏せ字を使った表記が多くなっていたこともあった。個人輸入のほうが圧倒的に安いが、「すべて個人の責任になる」と思うと、不安もつきまとう。
油まみれの大便がツルッと……
それでも、アメリカでは認可されているのであれば、効果も期待できそうだし、副作用もたいしたことはないだろう。そう、私は考えた。そして、実際にゼニカルを個人輸入して、2カ月ほど使ってみることにした。
結果からいえば、確かにダイエット効果はあった。しかし、ゼニカルを使い続けることはやめた。その理由をレポートしよう。
ゼニカルは、食べた油を体内に吸収させずに体の外に排出する効果がある。この作用は、ダイエット薬としてはよくあるパターンだ。
しかし、このタイプのダイエット薬を飲んだことのある人なら、こんな疑問が浮かんだことはないだろうか。「体外に排出された油って、いつ、どこで出たんだろう。汗? 尿? 油を排出した記憶がない」。
しかし、ゼニカルは違う。服用後、油まみれの大便が出るのだ。油まみれだから、大便が滑るようにツルッと出てくる。そして、便器のなかには、ラー油のような透き通ったオレンジ色のギトギトした油が浮いているのだ。
これには、正直驚いた。本当に油が体外に排出されたのを実感したからだ。「これなら、確実に痩せる」と手応えを感じた。だからこそ、意欲的に飲み続けた。
しばらくすると、体に変調が表れた。まず、肌がカサカサになってくるのだ。油分が体内からなくなるのだから、当然と言えば当然だろう。しかし、体重がわずかに減ったのに対して、肌がカサカサになるスピードは、思いのほか速かった。もっとも、化粧水や乳液で補えば、それはそれでいいと感じていた。
おならと一緒に油が破裂するように噴射
服用して、1カ月近くたった頃だろうか。その頃になると、大便が油まみれになって出ることが当たり前になってきた。そして、排便後に便器が油まみれになっているのを見ていると、不思議と脂こってりのものを食べるのが気持ち悪くなってきた。
味はおいしいのだが、油っぽさを感じると、反射的に油まみれの便器を思い出してしまい、胸焼けするような気分になったからだ。
そして、ツルツルとストレスなく大便が出るようになると、おならを出したいのか、大便を出したいのかの区別がつきにくくなってきた。そんなある日の外出中、歩きながら軽くおならをしたつもりが、大便まで出したような感覚に襲われた。
しかし、下着の中に大便を漏らしたような重さは感じられない。内股で早歩きをしながら自宅に戻り、下着を見ると、大便はなかったものの、下着はオレンジ色の油でべっとり覆われていた。
そこに大便のようなにおいはなく、薬品にありがちな苦いにおいがあった。それ以来、家にいる時におならをしたくなったらトイレに駆け込み、外出中はおならをしないように気をつける生活をしていた。
しばらくして、自宅にいる時におならがしたくなり、便座に座った。気持ちよくおならをすると、お尻から、ガスと一緒に油がブッと噴き出してきた。破裂するように、便器の内側全体が油に覆われていたのだ。
このショックは大きく、大便と一緒に油が出るのはかまわないが、おならと一緒に油が出る状態には耐えきれなくなってしまった。
「ゼニカルを服用し続けると、この副作用が永久に続くのか」と不安になり、ネットで検索すると、こういったトラブルに陥る人はよくいるらしい。そして、この状態で1カ月も過ごすと、「油が出るおならと、ガスしか出ないおならを区別できるようになる」という意見も見受けられた。しかし、私はここが限界だった。
生活を変えていないのに、2カ月で8キロやせた
ゼニカルをやめる頃には、2カ月で8キロほど体重が落ちていた。運動などはしていないし、ゼニカルを飲む以外に生活は変えていない。油が体外に排出されるようになり、さらに油っこいものを避ける食生活になったからだろう。
しかし、精神的にダメージを受け、およそ健康的に痩せたという感じではなかったと思う(そのあたりは、気の持ちようかもしれないが)。もちろん、ゼニカルを服用しても、そこまで油を排出しない人もいるようで、違和感なく使っている人もいるようだが、私には向いていなかった。
ダイエット薬としては効果があるし、その効果を視覚的に感じることもできるため、モチベーションも高められる。体質によって多少の差はあるだろうが、効果があることは間違いない。それゆえ、ゼニカルに興味を持つ人もいるだろう。ただ、体質に応じて、こういったトラブルが発生する可能性があることは、頭の隅に置いておくことをおすすめしたい。
(文=星野憲由)