100年に一度と言われる大規模再開発の真っ只中である「渋谷」。渋谷駅は約80年ぶりに東京メトロ銀座線がリニューアルされ、6月からはJR埼京線のホームがJR山手線と横並びになり、利便性が向上した。今後、渋谷駅はどのような進化を遂げていくのか。鉄道ライター・都市交通史研究家の枝久保達也氏に話を聞いた。
銀座線渋谷駅が東急東横店の中にあった理由
たびたび「渋谷ダンジョン」と話題になるほど、渋谷駅は構内が複雑な経路であることで知られている。さらに再開発の余波で駅の出口や経路が刻々と変わっており、わかりにくさに拍車をかけている。
今年に入ってからの大きな変化は、銀座線がリニューアルされたことだ。これまでの銀座線渋谷駅は東急東横店の中に入る、少し変わった場所にあった。
「以前の銀座線渋谷駅は、東京メトロの前身のひとつである東京高速鉄道が1939年に建設したものです。東京高速鉄道は現在の東急系の会社だったため、東急東横店の利便性と集客力の向上を目的に、デパートの中に駅をつくったという経緯があります。これは、当時としては画期的なことでした」(枝久保氏)
旧銀座線渋谷駅は80年前の建造物のため、ホームや階段が狭く、バリアフリー対応も遅れているなど、時代にそぐわない部分も多くあった。そのため、改修に至ったという。
「駅の施設を80年にわたって使用する例は珍しくありませんが、建物と一体化した構造上、容易に手を加えられなかったというのが実情です。東京メトロ副都心線との相互直通運転開始に伴う東急東横線の地下化によって、渋谷全体をつくり変えようという再開発プロジェクトが動きだしました。その影響で駅ビルもすべて建て直すことになり、ようやく抜本的な改良が可能になったのです」(同)
ホーム移設で逆に混雑が発生も?
では、銀座線渋谷駅は具体的にどこが変わったのだろうか。
「最大の特徴は、ホームの位置が100mほど移動し、明治通りの上あたりに設置されたことです。これによって、渋谷ヒカリエと直結する改札がつくられるなど、東口のアクセスが向上しました。これまで乗車ホームと降車ホームが別々でわかりにくい構造でしたが、改修でひとつになり、さらにホームドアも設置されたことで、安全性も向上しています」(同)
ほかにも、エレベーター、エスカレーター、多機能トイレが整備され、バリアフリー化も進んだことで、現代的な駅に生まれ変わっている。
また、それに伴い、渋谷スクランブルスクエアや渋谷ヒカリエに立体歩行者動線「アーバン・コア」が整備された。これにより、銀座線から東横線、副都心線、東急田園都市線、東京メトロ半蔵門線がエスカレーターとエレベーターで縦に接続されたかたちになり、乗り換え時の動線は大きく変わった。
一方で、不便な面も少なからずある。これまで銀座線渋谷駅のホームから山手線、京王井の頭線までは徒歩2分ほどの距離だったが、時間にして2倍ほど遠くなってしまったのだ。
また、ホーム移設により、これまで交わらなかった井の頭線~銀座線、JR~銀座線の乗り換え客が交差する事態も起きており、通勤ラッシュ時には混雑が見られている。1月末に開設した「中央東改札」によって混雑の分散が図られているが、その効果はまだ出ていないという。
埼京線・湘南新宿ラインは山手線の隣に
渋谷駅の改修は銀座線だけではない。これまで「遠い」と不評だった埼京線・湘南新宿ラインのホームも大幅に生まれ変わった。
「6月から埼京線・湘南新宿ラインのホームが北に350m移設され、山手線のホームと並列になりました。これにより、埼京線のホームからハチ公改札や南改札に直接出られるようになり、利便性が大幅に改善されています」(同)
改修の途中とはいえ、動線の変更に次ぐ変更で、渋谷駅の迷宮化はさらに進行しているようにも思える。
「将来的には、内回り・外回りで分かれている山手線のホームも拡幅の上、ひとつに統合されます。渋谷駅内部の改修はこれから本格化し、渋谷スクランブルスクエア中央棟・西棟の新築を含めた全体の工事は2027年頃まで続く予定です。また、今後はJR渋谷駅をくぐり東西を結ぶ1F通路と、JRを乗り越す3Fデッキが整備され、京王線、東急線との乗り換えの利便性が向上します」(同)
日々、目まぐるしく変化する渋谷駅。利用時に少しぐらい変わっていても、もはや、いちいち驚いていてはいけないのかもしれない。
(文=沼澤典史/清談社)