「がんセンターの言い分は『受動喫煙で明らかに肺がんが増える』であり、JT側は『統計分析法に異議あり』と反論しています。論点は最新の統計分析法をめぐるもので、専門家でも意見が分かれるほどの難問です。
がんセンターが行った研究は、まずコンピュータで国内の発表論文を網羅的に検索し、9編に絞り込んだ上で総合評価を下したものとなっています。今、このような研究手法は医学の分野で流行となっていて『メタアナリシス(超分析法)」と呼ばれます【※4】。これに対するJT側の反論は、『メタアナリシスは対象論文の選び方次第で結論が変わってしまう』『たばこ以外にも肺がんの原因はある』などです。
受動喫煙の害については、早くも1998年にアメリカで発表された論文の中で厳密な分析結果が報告されています【※5】。同論文では、まず受動喫煙に関するメタアナリシスが多数行われており、うち5編は『因果関係なし』と結論していますが、どれも『たばこ企業の社員またはコンサルタントが書いたものだった』と断罪しています。
メタアナリシスの対象にした論文の重みのつけ方に作為があったことを指摘するとともに、正しいメタアナリシスの基準についても詳細に述べています。その上で、『受動喫煙の害は証明される』と結論していました。この分析には、日本人が発表したデータも含まれていました。
この論文にくらべると、がんセンターの研究は不完全なものだったといわざるを得ません(調査対象者が本当にたばこを吸っていないことを血液検査で確認していない、対象論文のすべてが『因果関係なし』と結論したものだった、など)。特に、どれも『関係なし』と結論した論文であるにもかかわらず、それらのデータを合算したら『関係あり』に変わった、という主張は受け入れ難いものです。
互いに異なる条件下で行われた調査の結果を合算するという単純な考え方にも問題があります。同論文は国内の雑誌に載ったものですが、(私自身の経験によれば)海外の一流といわれる専門誌に掲載を断られた場合に、そうせざるを得ないことがあります。
この点、JT側の『むしろ、ひとつの大規模な疫学研究を重視すべき』との意見には私も賛成です。ただし、文献【※5】には信頼性が高い『ひとつの大規模調査の結果』も報告されており、『受動喫煙と肺がんは関係あり』との結論になっていました。JTの反論にも一理あったのですが、皮肉なことに結論はその意に反するものでした。今回の論争に限れば『両者引き分け』といったところですが、世界中の研究データを総合すれば、やはり『受動喫煙で肺がん死亡が増えるのは間違いのない事実』と考えていいでしょう」(同)
受動喫煙の健康被害についてJTを直撃
専門家の判定としては、「両者痛み分け」といったところのようだ。そこで、この岡田氏の見解を踏まえてJTに取材したところ、以下のような回答を得た。