日本を襲う豪雨や台風など風水害の被害が年々、強まっている。2019年9月の台風15号では各地に甚大な被害が及び、今年9月にも過去最強クラスと言われた台風10号が九州・沖縄地方に深刻な被害をもたらした。
国土交通省が発表したデータによると、日本人の23.1%は土砂災害警戒区域、津波浸水想定地域、浸水想定地域のいずれかの地域に居住している。しかし、リクルート住まいカンパニーの調査によると、防災対策をしている人は約3割にとどまるという。
コロナ禍での被災という新たな危機に直面する今、本当に必要な災害対策は何なのか。リクルート住まいカンパニーが運営する不動産・住宅情報サイト「SUUMO(スーモ)」編集長の池本洋一氏に話を聞いた。
東京東部の江東5区は水害リスクが高い?
――いわゆる災害危険地域というのは、具体的にはどこになるのでしょうか。
池本洋一氏(以下、池本) 大前提として、自然災害の危険度が高いからといって、その地域に住まない方がいいというわけではありません。ただし、自分が住んでいる地域がどのような特性を持っているかを把握しておくことは大事です。
東京都内でいえば、大規模水害ハザードマップに示されているように、江東5区(墨田区、江東区、足立区、葛飾区、江戸川区)は大規模水害によって浸水するリスクが高いとされています。荒川、隅田川、中川、江戸川に囲まれている上に、全体的に土地が低いからです。たとえば、江戸川区のJR平井駅は海抜マイナス2mという低地なので、堤防が決壊すれば浸水してしまい、長期にわたる被害が予想されます。
――最近は、荒川が氾濫する可能性が指摘されることも多いですね。
池本 江東5区はいずれも人口が多いので、一斉の広域避難は難しい点が問題です。荒川などが氾濫した場合、江東5区の人口の約9割にあたる250万人に浸水被害が及び、最大で10m以上の浸水や1~2週間以上の長期化が予想されています。そのため、台風襲来時などは早めの避難が命を守る行動になります。特に、河川敷に近い場所に住んでいる場合は、早めに避難するという意識を常に持っておくべきです。
――19年5月には、江戸川区が作成した水害ハザードマップで「ここにいてはダメです」と警鐘を鳴らしたことが話題となりました。
池本 異例の呼びかけといえますが、自治体が住民に向けて重要な情報を発信するという意味では評価できますし、自治体も相当な危機意識を持っているのだと思います。各自治体は再開発に伴い、下水道などのインフラを整備することで排水能力を高めています。
――大規模水害のリスクが高いということで、江東5区の不動産価格が下がることはあるのでしょうか。
池本 もともと、不動産価格には地震や水害のリスクが織り込まれています。また、たとえば東京23区でも東西で土地価格が異なりますが、その要因は2つあります。
1.東京の東部は土地が低く、築年の古い木造密集度が高いため、水害リスク、地震の際の倒壊、火災延焼リスクが高い。西部は台地が多く、建物密集度も東より低い
2.住みたい街ランキングにも表れているが、おしゃれな商業施設は西側に多く集まっている
一方で、実際の住みやすさや家賃などの関係で東部を選択する人も多く、当然ながら、その人の価値観や生活状況によって変わってきます。ただし、東部は比較的、水害のリスクが高いということは認識しておくべきでしょう。
防災は、ソフト面では「ハザードマップの確認」「自治体などが配信する緊急・防災情報、安全・安心メールなどの登録・確認」の2つが大切です。
タワマン居住者は電源&トイレの確保が重要に
――豊洲など、江東区にはタワーマンションが増えましたが、防災の観点からはいかがですか。
池本 タワマン居住者は非常時に「電源」「トイレ」の確保の2点が重要になるため、日頃から対策をしておくことが重要です。東日本大震災後に建設されたタワマンのほとんどは非常用電源を備えた非常用エレベーターが設置されているため、停電しても一定時間はエレベーターが稼働します。
今は災害対策がなされているマンションが増えており、選ぶ際には重要な観点となります。たとえば、「大崎ウエストシティタワーズ」は地下に防災倉庫があるだけでなく、各階に備蓄倉庫を完備しており、防災に力を入れているマンションのひとつです。
マンションの場合、避難所に入れないケースが多いことが想定されますので、在宅避難を意識した日々の備えが重要になります。日常生活で使う食料や水を多めに用意し、消費した分を補充するなどして無理のない備蓄を行うのがおすすめです。また、災害時、自衛隊や管理会社がすぐにかけつけられない状況の中、いかに居住者だけで乗り切ることができるかが重要になりますので、普段から住民同士のコミュニティ形成や交流の機会をたくさん持つと良いと思います。
――ほかに、ハード面ではどのような対策が必要でしょうか?
池本 停電が長引くことを考えると、自家発電は大きな強みになります。注目は太陽光発電です。電力の買い取り価格は下がりましたが、太陽光パネルの価格も下落しており、設置コストが下がっているのです。首都圏でも郊外であれば、ある程度の日照時間とそれなりの屋根面積があるので、検討する価値はあると思います。
また、災害対応の観点では、つくった電力をためる必要があります。方法としては、ひとつは住宅用の蓄電池の活用があります。また、電気自動車(EV)を購入するのもいいでしょう。EVの蓄電池は容量が大きいため、非常用電源としても利用できるからです。
たとえば、大和ハウスの「電気を自給自足する家」は、業界初の全天候型3電池連携システムで、雨天でも約10日分の電力と暖房・給湯を確保することができます。また、積水化学工業の「スマートハイム」は、停電時も昼間に太陽光発電で蓄電池や電気自動車にためておいた電気を家屋内で活用することができます。
いずれにしろ、家単体ではなく、暮らし全体でどのようにエネルギーを回していくかが大切になります。
(構成=長井雄一朗/ライター)