最近、高齢者による交通事故が話題になることが多い。なかには子供が被害者になるケースもあり、一部には「高齢者にはなるべく車を運転してほしくないし、運転免許証も返納してほしい」という声もある。
しかし、それは少し乱暴な話だ。東京都内ですら、いわゆる“買い物難民”で困っている地域もあるし、地方であればなおさらだろう。自治体によっては、免許を返納すると地域の商店街の割引クーポンを提供するなど特典を設けているところもあるが、根本的な解決にはなっていない。真の解決策はないのか。現状を認識するとともに、介護の専門家に話を聞いた。
まず、高齢者による交通事故は増えているのか。警察庁が発表している「原付以上運転者(第1当事者)の年齢層別交通事故件数」によると、65歳以上は10万551件で前年比マイナス1.3%(2015年)。しかし、全体に占める割合は19.7%と決して低くない。
一方、高齢者の免許返納の現状はどうか。警察庁交通局運転免許課の「運転免許統計 平成27年版」によると、15年の「申請による運転免許の取消」は27万159人(65歳以上)。06年の2万1374人と比較すると、12倍以上に増えている。
しかし、楽観はできない。警察庁交通局の資料によると、交通事故死者に占める65歳以上の割合は12年以降増加しており、15年は54.6%と半数以上を高齢者が占めている。つまり、高齢者は交通事故の加害者にも被害者にもなりやすい実態があるのだ。
高齢者の運転、認知症の一歩手前が一番危険?
さらに、国民の3人に1人が65歳以上、5人に1人が75歳以上となる「2025年問題」が控えている。今後、高齢者の交通事故問題にどう向き合えばいいのか。全国介護者支援協議会理事長の上原喜光氏に話を聞いた。
「25年には、団塊の世代がすべて後期高齢者になります。介護も大変ですが、交通事故の問題も根本的な解決策を考えていかなくてはいけません。これから、高齢者による交通事故は増える可能性があることを視野に入れて議論する必要があるでしょう」(上原氏)
データだけを見て「高齢者の交通事故件数は減少傾向にあるから、今後も増えないだろう」と考えるのは危険だ。母数となる高齢者の人数および全体に対する割合が増え続けることは確実である。これは、かつて経験したことがない状況であり、現状の延長線上のみで考えると思わぬリスクも想定される。
若者と高齢者の大きな違いは、瞬発力にある。一般的に、60歳をすぎると瞬発力が衰えるために、反射的な対応が難しくなるといわれる。