国民の20%が抱えるともいわれる不眠。睡眠薬を服用する人も少なくないが、実は不眠にはいくつかのタイプがあり、そのタイプごとに対処法も異なる。
YouTubeチャンネル「ジャガー横田ファミリーチャンネル『木下博勝のメディカルPlus』」を開設し、さまざまな健康テーマを取り上げ発信している医師の木下博勝氏に、不眠症との向き合い方について話を聞いた。
「『眠れない』と悩み、病院を受診する患者さんが多くいます。しかし、不眠といっても、寝つけないのか、途中で起きてしまうのかなど、タイプによって4つに分けられます」(木下氏、以下同)
不眠症の4つのタイプ
・入眠困難:寝つくのに30分以上かかる
・中途覚醒:夜中に繰り返し目が覚め、再び寝つくのに時間がかかる
・早朝覚醒:起きる意思がないのに、早朝に目が覚める
・熟眠障害:一晩眠っても疲労感が残る
木下氏は診察する際、不眠という訴えを聞いても、すぐに上記のタイプに照合することはないという。
「不眠だからすぐに睡眠薬を処方するというのではなく、診察では生活習慣をよく伺って、本当に不眠なのかどうかを見極めます。なかにはちゃんと睡眠は取れていても、不眠と思い込んでいるケースもあります」
診察の際、必ず聞く項目があるという。睡眠について悩みがある方は、是非チェックしてほしい。
(1)就寝時間と起床時間
「『20時に就寝し朝4時に目が覚めるため眠れない』と悩む患者さんもいましたが、8時間の睡眠が取れていますので不眠ではありません」
(2)就寝後目が覚める場合は、何時ごろ、何回か
「就寝中に目が覚めることを中途覚醒といいますが、実はほかの病気が原因となっている場合もあります。また、中途覚醒したあと再度、寝つくことができないという人もいます」
(3)熟睡できているか
「熟眠度、満足度は個人差がありますが、十分な睡眠時間が取れていても満足度が低い場合は、眠りが浅いということも考えられます」
不眠の医学的原因
不眠の陰に医学的原因が隠れていることがあり、不眠を軽視してはいけない。木下氏は、“5つのP”と呼ばれる医学的原因を考慮し、診察するという。
(1)Physical(身体的要因)
心不全、アトピー性皮膚炎、気管支喘息など
(2)Physiological(生理学的要因)
勤務時間が不規則、騒音など
(3)Psychological(心理学的要因)
ストレスや不安など
(4)Psychiatric(精神医学的要因)
うつ病、統合失調症、薬物依存など
(5)Pharmacological(薬理学的要因)
アルコール、カフェイン、ステロイド
「心不全などがあると、横になると心臓が苦しく不眠を招くこともあります。アトピー性皮膚炎や透析の患者さんなども、皮膚のかゆみがひどく不眠になることがあります。生活のリズムが不規則な場合も不眠を招きやすいですね。ストレスや不安、精神疾患による不眠。また、アルコールやカフェイン、治療のために使用するステロイドも不眠の原因になることがあります」
エナジー系ドリンクや滋養強壮ドリンクなどの人気が高まっていることも、不眠が増えている一因かもしれない。多忙なスケジュールを滋養強壮ドリンクで乗り切るといったビジネスパーソンも少なくないだろうが、睡眠へ影響がないよう、摂りすぎには注意してほしい。
生活習慣の改善が有効
睡眠の改善には生活習慣の改善が有効であるが、世代によって注意すべき点が違う。
「若い人は夜ふかしを控える、アルコールやカフェインの摂取を控える、などが基本です。一方、熟年世代は生活にメリハリをつけることが大切です。昼にウォーキングやラジオ体操などの適度な運動をするといいですね」
また、睡眠のリズムを整えるためのコツがあるという。
「眠くなったら就寝する。そして遅く就寝しても、起床時間は同じ時間にするほうが睡眠のリズムが整いやすいと思います。それでも改善しない場合は、不眠のタイプにあった睡眠薬を服用するという選択ができますが、睡眠薬は安全ではないということを十分理解した上で服用してほしいと思います」
2017年に厚生労働省医薬・生活衛生局は、睡眠薬にも多いベンゾジアゼピン系医薬品について、「依存性が生じることがある」と注意喚起を行っている。医師は患者へ睡眠薬の依存性や副作用についての説明を徹底する責任がある。
「睡眠薬の依存性はもちろんですし、睡眠薬の副作用で昼にふらつきが出てしまい、転倒して骨折などを起こす危険性があることを十分に理解した上で使用することが大切です」
木下氏は医師として安易な睡眠薬の服用を勧めない方針だが、一方で安易に睡眠薬を処方する医師がいることも現実である。不眠に限らず、自身の健康を守るためには、医療リテラシーを上げることが必要だろう。
(文=吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト)