これまで本連載では、たんぱく質栄養のレベルの低いことが健康リスクを高めることを強調してきた。そして40~50代の働き盛りの日本人は、老化耐性が低いたんぱく質栄養レベルのため、将来の要介護リスクが高いことも示した。超高齢社会の日本にとって極めて深刻な事態である。
このような情報はなかなか表面化することはない。メタボ対策情報が健康パラダイムの中核を成しているためである。そしていつしか、栄養状態が良いことは健康リスクを高めてしまうという誤った観念が定着してしまった。この良し悪し論はともあれ、カロリーオーバーによる肥満は多くの疾患リスクを高めてしまうのは事実であり、肥満が気になる中高年が多いのも確かである。そこで今回は、正しい肥満改善の手立てについて老化研究の知見を加え整理してみる。
ところで、肥満は食事から摂る各種栄養素全般の過剰摂取の結果として捉えてはならない。厚生労働省が5年に1度発表する「日本人の食事摂取基準(2015年版)」というガイドラインがある。そのなかで、カロリー(エネルギー)摂取量の過不足はBMI(体格指数:体重kg/身長平方m)で評価し、その他の栄養摂取量の過不足は摂取調査して評価するよう指示している。
すなわち、BMIが高い、いわゆる肥満はカロリー摂取の過多の反映と規定している。肥満とは、個別の栄養素摂取が総じて過剰なことに起因しているのではなく、カロリーの過剰摂取によるものである。したがって、カロリー摂取過多で肥満になってしまっても、個別の栄養素でみれば栄養失調なことはよくある。
ダイエットチャレンジャーの多くは、主要栄養素の摂取を同時に減らして減量する誤りを犯している。ダイエット本が氾濫しているが、肥満は年齢により手立てが大きく異なることはほとんど説明されていない。
カロリー制限で老化が加速のおそれ
老化研究の視点を加味するとこうなる。まず、筋肉と骨格に老化による衰えが見られない20~30代は、カロリー摂取のみを体格に合わせて適正に持っていくアドバイスに従えば基本的にOKである。具体的には主に炭水化物(糖質)と必要があれば脂質の摂取量を適正にすればよい。日本人の平均的食事では、カロリー摂取の55%程度は炭水化物(糖質)、25%は脂質だからである。多様なたんぱく質食品(肉、魚、卵、乳類など)や各種ビタミン・ミネラルの源である野菜、果物はしっかり摂る。