「高血圧ワクチン」といわれるものが開発中であることをご存じでしょうか。それも、今年からオーストラリアで治験も始まるというから驚きです。大阪大学の森下竜一教授とバイオベンチャー企業のアンジェスMGによって、その研究は進められています。さすがは、「世界をリードする先端研究」を理念に掲げる大阪大学であると感心すると同時に、その実用化が待たれます。実際に認可されるのは最低でも5~6年先と見込まれますが、治療効果以外に経済的面での期待も高まります。
私たちの体の中には、「アンジオテンシンII」という物質があり、これが血流に乗って全身を巡るなかで、血管の壁に付着すると血管を収縮させます。高血圧ワクチンは、リンパ球の一種に働きかけ、アンジオテンシンIIが異物であると認識させることで抗体をつくります。リンパ球は、一度抗体をつくると、そのシステムを記憶します。高血圧ワクチンの効果は、少なくとも数年以上の持続が見込まれています。森下教授のグループの実験によると、ネズミでは高血圧ワクチンの効果は半年以上続いたとの報告があります。これは、ネズミの寿命の4分の1にあたり、人間で考えると20年以上に相当すると考察することができます。
従来の降圧剤を列挙してみると、次のとおりです。
(1)Ca拮抗薬:血管を拡げて血圧を下げます。広く使用されている降圧剤のひとつです。
(2)ARB:アンジオテンシンIIに作用し、血管の収縮を抑え血圧を下げます。
(3)ACE阻害薬:アンジオテンシン変換酵素(ACE)が働き、アンジオテンシンIから血管を収縮させるアンジオテンシンIIがつくられます。ACE阻害薬は、ACEを阻害し、その結果、血管は拡がり血圧を下げます。
(4)利尿薬:血液中の水分が増えると、血管を流れる血液の全体量が増えてしまい、血圧が上がります。利尿作用により血液中の水分を減らし、血液の量を正常に近づけることで血圧を下げます。
日本人の3人にひとりは高血圧症といわれますが、その治療は降圧剤を飲み続けなければなりません。降圧剤のなかでも、ARBやACE阻害剤を服用する人は非常に多く、これらの薬を服用している人には、高血圧ワクチンは非常に有効だと考えられます。