「さよならバイスタンダー」は、YUKIの最新シングルにして人気テレビアニメ『3月のライオン』のオープニングテーマ。タイトルには「傍観者的な生き方への決別」という意味が込められているそうだ。
「バイスタンダー(bystander)」とは、「発見者」「同伴者」など、救急現場に居合わせた人を指す用語でもある。
一例として、こんなデータがある。平成18~20年にかけて東京消防庁に通知された食品絡みの窒息事故2633件(食品の分類が不明はものを除く)の分析結果だ。
「食事中」の状況と「座っていた」状態の事故がいずれも39%を占め、51%が「窒息症状」にあり、バイスタンダーが「有」または「近くにいた」という案件が51%を占めていた。この10年ほど前の数字を念頭において、以降の記事をお読みいただきたい。
3月15日、消費者庁が食品による窒息死事故の情報を発表した。厚生労働省「人口動態調査」(平成22~26年)に基づく分析によれば、該当時期の5年間で子ども(14歳以下)の窒息死事故が623件、うち食品関連の窒息死事故が約17%(103件)を占めていた。
なかでも注意を喚起したい点が、103件中87件までが「6歳以下の子ども」に発生している実態だ。
窒息死する原因食品に例外なし?
ちなみに、子ども(14歳以下)の窒息死事故の内訳は、マットレスが顔に埋まる等の就寝時(173件=28%)、吐瀉物が詰まるなどの胃内容物の誤嚥(170件=27%)、食物の誤嚥(103件=17%)の順だった。
事故原因の食品(不明は除く)を分類すると、菓子類(マシュマロ、ゼリー、団子など)の11件が首位、次いで「その他の食品(餅、寿司、チーズ、そうめんなど)」が8件と多かった。
ほかには、リンゴやブドウなどの果実類が5件、ホットドッグや菓子パンなどのパン類が4件、焼肉・唐揚げなどの肉類も3件あって、窒息死の原因食品に例外なしの印象を残す。
一方、消費者庁と独立行政法人国民生活センターとの共同事業(=医療機関ネットワーク事業)の参画30医療機関から寄せられた情報では、子どもが食品によって窒息=入院するなどの事故報告例が236件(平成22年12月~平成28年12月末)あった。
その事例(菓子類―飴を除く)のなかには、一見、ありふれた家庭の光景から生じた盲点が垣間見える、こんな案件もあった。
●保護者が子どもを見ているときに、子どもがせんべいを食べながらマッサージ機の背もたれに腰掛けていて、そこから転落して硬いせんべいを喉に詰まらせ、呼吸困難になった。
(医療機関ネットワーク、受診月日:平成25年5月、2歳、要入院)
裏読みをすれば、保護者(いわゆるバイスタンダー)が「見て」いながら、背もたれに「腰掛けて」「硬いせんべい」を「食べている」状態を看過し、不測の事態が起きた事例だ。前掲の東京消防庁に通知された案件の傾向要素がすべて出そろっているのがわかる。
バイスタンダーの手抜きが事故を招く?
あるいは保育の現場でも「ホットドッグ(パン、ゆでキャベツ、ソーセージ)を誤嚥し、急にせき込み、息苦しくなった」とか、「一口の量が多かった事例」としてこんな事故が報告されている。
●グミ(1cm×1cm×1.5cm)を10個ほど一気に食べて喉に詰まらせて意識が混濁し、顔面蒼白になってきたため、救急車を要請した。
(医療機関ネットワーク、受診年月日:平成27年3月、3歳、中等症)
かつて「こんにゃくゼリー」の窒息事故が問題視されたことがあったが、時代の流れで悪役が「グミ」に変わった例といえるだろうか。
話は前後したが、消費者庁の公表した「5年間で103件(14歳以下)」の内訳は、0歳児が半数近くの49件で最多、1歳児が18件、2歳児が9件、3歳児で6件。幼い順で事故に遭いやすく、これら「3歳以下」で計82件と全体の8割超を占めている。
同庁は、「食品を小さく切る」「飴やタブレットは大きさに要注意」「気管支に入りやすい硬い豆・ナッツ類は3歳児頃まで控える」「年長の子供が乳幼児に危険な食品を与えないように注意する」などの注意喚起をしている。
さらに「食事中に注意すること」を要約すると、「遊びながら/歩きながら/寝ころんだまま食べさせない」「ゆっくり噛み砕いてから飲み込むよう促す」「お茶や水で喉を湿らす」「食品を口に入れたまま等のながら食事をさせない」「食事中に眠くなっていないか/正しく座っているかに注意し、食事中に驚かせない」となっている
なかでも最初と最後は、“スマホ(閲覧)命”的ママ世代にこそ注意を呼びかけたい。「昔だって読書や手芸をしながら子育てしていたでしょう」といった詭弁を返す母親は、「バイスタンダー失格」ではないだろうか。
便利家電が隆盛で「ミニ」や「小粒」を謳う食品があふれる今日こそ、不測の事態や事故の死角や盲点はあるかもしれない。
(文=ヘルスプレス編集部)