新年度、新生活が始まって約2週間、そろそろ疲れも出始める頃だ。「春眠暁を覚えず」とはいえ、寝床から出るのがつらい人は、よく眠れていないかもしれない。
熟睡を妨げる原因のひとつに、寝ている間にトイレに行きたくなり、つい起きてしまうというものがある。
世界睡眠医学協会(World Association of Sleep Medicine)が定める「世界睡眠デー(3月18日)」でも、専門家らが「夜間頻尿が質の悪い睡眠の最大原因」と指摘していた。
「夜間頻尿」の定義は、「夜中に1回以上」トイレに起きてしまうことだ。成人は、就寝中に尿を抑えるホルモンが分泌されるため、夜間は尿意を感じないのが普通だ。しかし、夜中にトイレに行くことに慣れて、深刻に考えていない人もいる。
日本泌尿器科学会の調べによると、40歳以上の7割近くの人が夜間頻尿に当てはまるという。
毎晩のように排尿で睡眠が中断されれば、慢性的な睡眠不足から疲労やストレスを感じたり、怒りっぽくなったりするなど、生活の質(QOL)にも影響する可能性がある。さらに、心疾患や脳血管疾患など生活習慣病のリスクも上がってしまう。
では、どうすればいいのだろうか。泌尿器系の特別な病気のない人であれば、生活リズムを一定に整え、水分やカフェインの摂取を控えることで改善する場合も多い。
また、最新の研究では、食事の塩分を減らすことでも、夜間にトイレへ行く回数を減らせる可能性があることがわかった。
減塩したらオシッコの回数が減った!
この研究を行ったのは、長崎大学泌尿器科・腎移植外科の松尾朋博医師ら。研究結果は3月26日、英ロンドンで開催された「欧州泌尿器学会年次集会(EAU17)」にて発表された。
研究の被験者は、塩分の摂取量が多く、睡眠障害のある日本人の成人男女321人。研究グループは、彼らに毎日の塩分摂取を減らすよう指導し、12週間にわたって追跡調査を行った。
その結果、200人を超える被験者で、1日の塩分の摂取量が平均11gから8gに減った。それに伴い、一晩の排尿回数も平均2.3回から1.4回に減少。さらに、日中の排尿回数も減り、生活の質の改善につながった。
一方で、100人弱の被験者は、塩分摂取量が1日平均9.6gから11gに増加。すると、このグループは、一晩の排尿回数も平均2.3回から2.7回に増えていた。
従来の研究は、水分摂取量の制限に着目したものが多く、今回のような塩分摂取量はあまり考慮されてこなかったという。
松尾医師は、「この研究は、塩分摂取量が夜間の排尿回数にどのくらい影響を及ぼすのかを検討した初めてのもの」と語り、「今回の結果は、食事の内容を修正するだけで、多くの人がQOLを大きく改善できる可能性を示している」と結論づけた。
頻尿の陰に「睡眠時無呼吸」の可能性も
一方で、夜の頻尿にはいわゆる「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」が関連しているということも最近の研究で明らかにされている。同じく先月のEAU17で学会発表された。
それによると、SASのなかでも、空気の通り道である上気道が狭くなり、呼吸が止まってしまう「閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)」タイプの患者を「持続陽圧呼吸療法(CPAP)」で治療すると、夜間の頻尿も改善される可能性があるという。
CPAPとは、患者にマスクを装着して一定の気流を送り込むことで、睡眠中に気道がふさがるのを防ぐ治療法だ。
今回は、CPAPを受けた256人を追跡調査。CPAPを始める前は、患者の69%が夜間に2回以上トイレのために起きていた。しかし、CPAP導入後、患者の65%が夜間の排尿回数が減少した。
たとえば、一晩に2回トイレのために起きていた患者77人のうち32人(42%)は、治療を始めると朝まで寝られるようになった。
専門家によると、睡眠時無呼吸と夜間頻尿は併発することが多い。つまり、腎臓や前立腺に問題のない人に夜間頻尿がある場合、睡眠時無呼吸が隠されている可能性がある。
「たかが夜のトイレ」と侮ったり、「歳だから仕方がない」と諦めたりすることなかれ。夜間の頻尿は、危険な病気のサインにもなりうるのだ。
悩まされている人は生活習慣を見直し、必要に応じて医師の診断を受けて、改善していくようにしたい。
(文=ヘルスプレス編集部)