スウェーデンのカロリンスカ研究所の主任研究員であるMats Olsson氏らは、他人の病気をにおいと外見によって感じた時、ヒトは逃避行動を起こしやすくなるという事実を示唆した研究を、『Proceedings of the National Academy of Sciences』オンライン版に発表した(5月30日付「HealthDay News」より)。
だが、体臭や外観だけで、他人の体調の好不調が見分けられるのだろうか。
発表によると、Olsson氏らは、被験者22人に無害な細菌の毒素を注射し、倦怠感、痛み、発熱などの症状を誘発したうえで、毒素の注射によって症状のある時(病気群)と生理食塩水だけを注射した時(健康群)の写真を被験者ごとに撮影し、その体臭を採取した。
次に、別のボランティア30人に病気群または健康群の写真を見せ、体臭を嗅がせながら、fMRI(磁気共鳴機能画像法)によって脳の働きを調べた。さらに、2群のどちらが不健康に見えるか、魅力的と感じるか、交流したいかを回答させた。
その結果、脳は嗅覚と視覚から健康状態に関する微弱なシグナルを敏感に感知していた。健康群について、病気群よりも魅力的で交流したいと回答する傾向が有意に高かった。
このような事実から、Olsson氏は「他人からの感染に対しては、免疫システムが働くため、回避行動が強く促されるが、親しい人が病気になった場合は、必ずしも回避行動を起こすとは限らない」と指摘する。
たとえば、鼻水が出ている相手にキスしたい人はまずないだろうが、自分の子どもにならできる。つまり、ごく親しい相手なら、病気のシグナルは思いやり行動を促しやすい。
今回の研究によって、脳神経は嗅覚と視覚を統合化して、病気のシグナルを感知しているが、免疫システムによって他人からの感染を回避しようと行動する機序が明らかになった。