アメリカの人気歌手アッシャーが、過去に交際した女性にヘルペスをうつし、女性の健康を害したとして提訴され、示談金110万ドル(1億円以上)を支払ったというニュースが多くのメディアで報道された。
報道によると、アッシャーにヘルペスを患っているとの診断が下ったのは2009~10年頃。女性との関係は、その診断後でアッシャーは自分がヘルペスだと知っているにもかかわらず、性病に関して「検査は受けたし陰性だった」などと嘘をついて女性と性交渉に及び、感染させたという。その女性は、「健康を害された」とアッシャーを提訴して示談金を勝ち取った。
この舞台となったカリフォルニアでは、自らの性病を知りつつ他人に感染させるのは違法だという。だが、訴えた女性にヘルペスを感染させたのがアッシャーだと証明するのは簡単ではなかったと推測される。同様の案件に詳しいアイシア法律事務所の小林嵩弁護士に話を聞いた。
「感染が疑われる時期に、ほかの人とは一切肉体関係を持ったことがないという場合において、当時相手が性病に罹患しており、かつ相手がそのことを承知しながら避妊具をつけずに性行為に及んだというような事案であれば、不法行為責任が成立し、損害賠償を求めることが可能と思われます。もっとも、これらの事実を裏付ける証拠が必要であり、容易に立証できるものではないと考えられます」(小林弁護士)
しかし、性感染症の危険は、性交渉を持った経験があれば、誰でも被害者・加害者の双方になる可能性があるといえる。アッシャーが女性にうつしたヘルペスは、少し厄介な性感染症のひとつだ。読者諸氏には、アッシャーのような事態を招かないために、ヘルペスについて正しく知っていただきたい。
ヘルペスとは、単純ヘルペスウイルスが原因で起きる性感染症である。単純ヘルペスには1型と2型の2種類あり、主に1型は口唇や顔面など上半身に症状が現れるのに対し、2型は主に下半身に症状が現れ「性器ヘルペス」とも呼ばれる。ヘルペスウイルスの特徴は、最初の感染(初感染)後に免疫ができても完治することはなく、ウイルスが腰仙骨神経節(腰部の神経の根元)の神経細胞に住み着き潜伏状態となる点にある。ヘルペスウイルスは、普段は神経細胞でじっとしていて悪さはしない。しかし、疲労やストレスなどをきっかけに暴れ出すと、症状が再発する。再発の頻度は個人差があり、毎月繰り返す人もいれば、長期にわたって症状が出ない人もいる。
ヘルペスの症状
1型は、口唇ヘルペスが代表歴で、経験した人も多いだろう。口唇にヒリヒリとした痛みを伴う水ぶくれができるのが特徴で、見た目にも痛々しい。2型の性器ヘルペスの症状は、性器に水ぶくれ、皮膚がただれた状態の潰瘍ができ、見た目には赤くブツブツとしている。初感染では強い痛みや発熱、女性では排尿痛を伴うことが多いのに対し、再発の場合は初感染よりも軽い症状ではあるが、やはり痛みを伴う場合も多く、症状の程度には個人差がある。女性の好発部位は、外陰、膣の入り口、臀部、肛門周囲。男性の好発部位は、亀頭、包皮、陰茎、臀部、肛門周囲である。