下腹をいきなり“ギュギュー”と締め上げられるような激しい痛み。猛烈な便意。寒気。脂汗。トイレに駆け込み一息ついて、トイレから出ようとすると激痛の再発。トイレの出入りを繰り返した後、ようやく痛みが出なくなったら、その後は数日にわたる便秘。ガスがたまっておなかが張り、息苦しい……。
こうした腹痛と下痢・便秘に私は悩まされていた。典型的な「過敏性腸症候群」の症状だ。
あるデータによれば、「日本人の10人に1人」が過敏性腸症候群だという。これは「氷山の一角」ではないかと私はらんでいる。時間的な制約や「どうせ『心の病』と診断されるだけだろう」といった推測で、受診しないで我慢している人も多数いるはずだ。というのも、以前の私がそうだったからだ。
過敏性腸症候群の症状に悩まされながら受診もせず、一般に「腸に良い」とされている発酵食品を摂取して自己流で治そうとしている人に、ぜひ伝えたいことがある。
それは、「発酵食品などが過敏性腸症候群の引き金になっている」可能性だ。つまり、過敏性腸症候群は「心の病」では片づけられないのである。
「気の持ちよう」にされて追い詰められている患者も
胸やけ・もたれ・胸痛・腹痛・下痢・便秘などが繰り返し起こるが、内視鏡検査などで胃や腸には明らかな異常が認められないものを「機能性消化管疾患」と呼ぶ。過敏性腸症候群は機能性消化管疾患のひとつだ。
検査で異常を見つけられないために、「患者の心」に原因があるとして心療内科や精神科を紹介されるケースも多い。
確かに、腸はストレスの影響を大きく受ける。意志とは無関係に臓器の働きや血流などをコントロールしている「自律神経」は、ストレスでバランスが崩れやすい。そして、ストレスで自律神経が失調し、過敏性腸症候群が引き起こされることがある。
このような症状は「脳腸相関」といって、脳と腸は密接に影響を及ぼし合うこともわかっている。そのため過敏性腸症候群は、緊張や不安の強い人、神経質な人、がんばり屋さんなどに多いといわれてきた。
「だから、気の持ちようで症状は改善する」という理論があるのだが、実生活では仕事があり、テストがあり、子育てがあり、人間関係がある。どんなに腹痛で苦しかろうと、放棄できないことを抱えながら私たちは暮らしているのだ。
過敏性腸症候群を「心の病」にされてしまって、逆に追い詰められた患者もいるのではないだろうか。
<低FODMAP食>で過敏性腸症候群が改善している
過敏性腸症候群は、欧米やオセアニアでも患者が多く、研究が進められている。最近、話題になったのは、オーストラリアのモナッシュ大学の研究チームが発表した「低FODMAP(フォドマップ)食」と過敏性腸症候群の関係だ。FODMAPとは「Fermentable Oligosaccharides, Disaccharides, Monosaccharides and Polyols(発酵性のオリゴ糖、二糖類、単糖類、ポリオール)」の略語。
つまり、低FODMAP食によって過敏性腸症候群を改善できることが科学的に証明されているのだ。
・高FODMAP食の例:リンゴ、スイカ、ドライフルーツ、タマネギ、アスパラガス、ブロッコリー、マッシュルーム、小麦、アイスクリーム、ヨーグルト、ハチミツ、大豆など
・低FODMAP食の例:バナナ、ブルーベリー、レモン、グレープフルーツ、ニンジン、セロリ、ジャガイモ、カボチャ、米、豆腐、砂糖など
糖類の多くは消化酵素で分解され小腸で吸収される。しかし、FODMAPは小腸で吸収されにくいので、そのまま大腸に達する。FODMAPによって大腸内での発酵が進み、過剰なガスが発生。さらに腸の中に水分を引き寄せて、症状を悪化させると考えられている。
ちなみに「ソルビトール」という糖類が含まれている市販の「漬け物」や「味噌」は、FODMAPを多く含む食品に分類される。
以上のことから、過敏性腸症候群に悩んでいる人がヨーグルトや漬け物などを食べると、症状が悪化する可能性が高い。
過敏性腸症候群の人が低FODMAP食を3週間続けると、約70%に症状の改善が見られたという発表がある。過敏性腸症候群と診断を受けた人は、「『心の病』だから仕方がない」とあきらめずに、食事療法に取り組んでみてはどうだろうか。
(文=森真希)