米国務省は9月29日、キューバの首都ハバナにある米大使館職員の半数以上を帰国させると発表した。その理由は驚くべきものだった。「外部から正体不明の攻撃を受け、大使館職員に健康被害が相次いでいる」というのだ。
これまでに少なくとも22人が聴力低下、めまい、頭痛、吐き気、鼻血、倦怠感などの症状を訴え、同様の健康被害はキューバのカナダ大使館でも広がっているという。
帰国した外交官数名を検査したところ、脳震盪(のうしんとう)や脳腫脹(のうしゅちょう:脳実質組織に液体成分が異常に増加し脳の容積が増大した状態)など、軽度の「外傷性脳損傷」を負っていることも判明した。
さらに10月4日には「攻撃」への対抗措置として、在米キューバ大使館員に国外退去が求められ、両国間に波紋が広がっている。キューバ政府は一切の関与を否定しているものの、両国間の関係は緊張の様相を呈している。
2015年以降、アメリカとキューバは良好な関係を築いてきた。7月20日、アメリカとキューバ相互に大使館が再び開設され、1961年に断交して以来54年ぶりに国交が回復した。
16年3月20日にはバラク・オバマ米大統領(当時)がキューバを訪れ、ラウル・カストロ国家評議会議長と会談。オバマ氏の後を継いだドナルド・トランプ大統領は、17年6月16日にオバマ氏の対キューバ政策を「完全に解消する」とした自身の路線を発表したが、その内容は前政権の政策からの「部分的な変更」にとどまっている。
つまり、両国間の関係、いわゆる「キューバの雪解け」は良好な方向に向かっていたはずだが……。
耳に聞こえない音による新たな「音響兵器」か?
この謎の健康被害に関して、米メディアでは音波を用いた「音響兵器」によるものとの報道が飛び交っている。現在、実用化されている音響兵器には、世界各国の軍隊・警察・消防機関に導入されている「LRAD(Long Range Acoustic Device)」や、イスラエル軍が使用した「スクリーム(叫び)」などが知られている。
これらは、暴徒への警告や鎮圧などを目的に、狙った目標に向けて集中的な大音量を発生させる装置だ。イスラエルで行われたデモ隊の鎮圧では、人の平衡感覚を司る内耳に作用する周波数の音波が用いられ、攻撃された者は頭痛を覚えたり一時的に平衡感覚を失ったりする被害を受けたという。
だが、もしキューバで音響兵器が使用されたのであれば、こうした既知の兵器とは別種のものだとみられている――。
AP通信などの米メディアは、米政府高官の話として「被害者のなかには、金属音のような不快なノイズを感じた者もいる一方、何も感じないままで被害を受けた者もいる。『人間の耳に聞こえない高度な音響兵器』が用いられた可能性がある」と報じている。