紅茶、コロナ感染抑制との研究報告、5-ALAも…ピーマン・バナナ・レバーに多く含有
私の母校、長崎大学大学院熱帯医学グローバルヘルス研究科の北潔教授らの研究グループによる「5-ALAによる新型コロナウイルス感染抑制効果」についての研究論文が2月8日、国際学術誌「Bio-chemical and Biophysical Research Communicatious」に掲載された。タイトルは“5-aninolevulinic acid inhibits SARS-CoV-2 infection in vitro”。
「5-ALA」は「5-aninolevulinic acid」(5-アミノレブリン酸)が正式名である。「5-ALA」はヒトや動物、植物などあらゆる生命体でつくられているアミノ酸なので、当然毒性はない。ヒトの細胞内では17歳頃をピークに減少していくとされている。
北教授らは「試験管内で培養している細胞に新型コロナウイルスを感染させ、一定量以上の5-ALAを投与するとウイルスの増殖が抑制される、ある一定濃度以上だと100%増殖を阻害する」ことを確認した。もともと、北教授は2009年ごろより、「抗マラリア剤」として5-ALAの研究を続けてきた。「マラリア原虫(病原体)の遺伝子配列に5-ALAの産物が結合すると原虫が増殖しない」ことを確認していたが、「新型コロナウイルスの遺伝子のなかにも同じ配列が複数あることに気づき今回の研究に結びついた」という。
10年以上前から5-ALAは肥料、飼料、化粧品、ペットサプリメントにも活用されてきたが、人体60兆個の細胞内に存在し、糖を燃焼してエネルギーに変えるミトコンドリアという小器官の働きを5-ALAが高めるとして、血糖値を下げるサプリメントなどにも応用されている。
5-ALAはすべての動植物に含まれているので、どんな食物にも含まれているのは当然であるが、【表】よりわかるように、野菜では葉緑素(クロロフィル)を多く含むピーマン、ホウレンソウ、トマトに多く含まれ、果物ではバナナ、巨峰の含有量が多い。肉類ではレバーに多く含まれている。魚・魚介類では、イカ、タコの軟体動物に多く含まれているので、水揚げされてもかなり長い間生きているという生命力の強さと関係があるのかもしれない。なぜなら、5-ALAはあらゆる生命体の細胞のなかでつくり出されており、「生命の根源物質」とさえいわれているのだから。
特筆すべきは、発酵食品に抜群の量の5-ALAが含まれている点だ。発酵するときに活躍する酵母や菌などの原子生命体が、旺盛に5-ALAを作り出すのであろう。ワインや日本酒に含まれる5-ALAの量は半端ではない。上戸の人々にとっては大朗報であろう。
数カ月前、ロシアの新聞で「新型コロナウイルスに感染して肺炎を起こした中年男性がウォッカを存分に振りかけたマスクをして一晩眠ったら肺炎が大改善していた」という記事を読んだことがある。新型コロナウイルスの予防として「三密を避ける」に加えて「アルコール消毒」があげられるが、アルコールは本当に効果的なのかもしれない。
カテキンの効果
さて、もうひとつお茶の話題。奈良県立医科大学の矢野寿一教授らの研究グループが、ペットボトル入りの緑茶や紅茶などの10商品を用意して「試験管内で新型コロナウイルスとお茶を混ぜ、経過時間ごとの感染力を持ったウイルス量を検査」したところ、「もっとも効果が高かったのは茶葉から淹れた紅茶で、感染力のあるウイルスは1分間で100分の1、30分間で1000分の1まで減少」したという。
新型コロナウイルスの表面には、人体の細胞に侵入する際に使うトゲ(スパイク)がついており、茶のなかの「カテキン」がこのスパイクに付着して感染力を奪う、と推測されている。5-ALAやカテキンの新型コロナウイルス感染抑制に対する効果は、いずれも実験室内での研究結果で、今後、人体を使った臨床試験が待たれるが大いに期待してよいのではなかろうか。
イギリスの産業革命以降、特に19~20世紀に全世界で猛威を振るった結核は、抗生物質のペニシリンの開発によって抑え込まれた。1928年、“Penicillium notatum”(青カビ)の培養液中に抗菌物質が存在することがイギリスのA.フレミング博士によって発見され、“Penicillin”(ペニシリン)と命名された。その後、1940年、E.B.Chain、H.W.Florey両博士らによってペニシリンが粉末状に分離され、動物や人の感染症への使用が始まり抗生物質療法時代の幕開けとなった。
このように種々の“難病”の予防・治療法は、意外と身近なところで発見されるものなのである。
(文=石原結實/イシハラクリニック院長、医学博士)