相撲界を揺るがす大騒動となった元横綱・日馬富士の暴行事件。日馬富士を激昂させた原因のひとつは、貴ノ岩が説教されている最中にスマホを操作したことだといわれている。
どんな理由があっても、暴力は許されるものではない。だが、この一件に関する報道のうちには「先輩の説教中にスマホをいじる貴ノ岩にも問題がある」と咎めるような論調もあった。
大事な話の最中でも、スマホが鳴れば気になってしまう――。何も貴ノ岩だけではないだろう。街中では、子どもから目を離してスマホ操作に没頭する親の姿も少なくない。大学でも、授業中にスマホをいじる学生に対して、「必要な調べものをしているかもしれない」と教員も注意しかねると聞く。
スマホの用途は多岐にわたり、知人との連絡や情報収集から仕事まで、どれも日々の生活に役立つものと主張する向きはある。だが、「スマホ依存は脳内の神経伝達物質のバランスに異常を及ぼす」という研究結果を知れば、便利さの裏の危険性にも目を向ける気になるだろうか。
ギャンブルやポルノの依存症にも匹敵
その研究は、韓国・高麗大学のHyng Suk Seo氏らが実施。対象は「インターネット依存症」または「スマホ依存症」とされた10代の男女19人と、同じ年齢、性別の依存症のない健康な男女19人。依存症患者には、インターネットやスマホの依存症の重度を測定する検査を実施している。
その結果、インターネットやスマホの依存症患者には、依存症でない人に比べて「グルタミン(Glx)」に対する「yアミノ酪酸(GABA)」の活性レベルが高いことが示された。
GlxとGABAはいずれも脳内の神経伝達物質だが、Glxは興奮性、GABAは抑制性の物質とされている。同氏らによると、これまでの研究で、GABAは視機能や運動調節、不安などさまざまな脳機能の制御に関与することが明らかにされているという。
この研究結果を受け、米コーエン小児医療センターのSanjeev Kothare氏は「インターネットやスマホへの依存症は、ギャンブルやポルノの依存症に匹敵する病態かもしれない」との見方を示した。
また、同氏は10代の子を持つ親に対して「もし、我が子がスマホ中毒ではないかと心配なら、スマホやコンピュータの使用を制限すべきだ」と話している。
0~5歳のスマホ接触率は58.8%に
いまや、中高生のスマホ依存は、大人が思っている以上に深刻な領域に突入している。
スマホ依存の実態をルポした『スマホ廃人』(石川結貴/文春新書)によれば、さまざまなグループとLINEのやり取りをして、休日には連続10時間の操作を行い、数時間スマホを放置すれば未読メッセージが100件、200件と積もる女子高校生もいる。
さらに、子育てにスマホが必須の現代では、乳幼児のときからスマホ漬けが始まっており、0~5歳のスホマ接触率は58.8%にも達しているという。
どんなに現状を嘆いても、スマホのない時代には戻れない。いかに節度を持ってスマホと付き合うかが問われる今、生身の人間とのコミュニケーションを大切にすることが唯一の処方薬なのかもしれない。ところが、今や人と会うのもスマホを介さないと叶わないのだから、頭の痛い問題である。
(文=ヘルスプレス編集部)