Aさんは勧誘の際に、初めに週3回コースの説明をされ、そんなに通うのは無理だなと思い、「週3回も通うのは無理だから、結構です」と断った。すると先方は「では、週1回のコースはどうですか。ほんとうは週に何回か通っていただいた方が効果的なのですが、お忙しい方は週1回コースにいらしてます。いかがでしょうか」と強く勧められた。
週3回も通うのは無理だなと思い躊躇したAさんも、週1回なら無理なく通えそうな気がしてきて、申込書に記入した。だが、ここに落とし穴があった。もし、初めから週1回のコースを勧められていたらどうだっただろうか。「とくに英会話を習う必要性もないし、わざわざ通うのも面倒だ」と思い、あっさりと断ったのではないだろうか。
初めに「週3回」という高いハードルを提示してきたところに罠が仕掛けられていたのである。「週3回」と比べたら、「週1回」は非常にハードルが低く感じられる。そこに働いているのが対比効果だ。
Bさんの場合は、逆に「週1~2回」のつもりだったのに、毎日使えるコースを申し込んでしまった。なぜそんなことになってしまったのか。実は、ここでも同じ必殺の心理トリックが使われている。ただし、Aさんのケースと違い、回数でなく料金のトリックだ。Bさんは週1~2回使えるようなコースを申し込みたいと思ったが、週1回のコースの2倍ちょっとの料金で毎日使えるとのことだった。「週1日の2倍ちょっとの料金で週7日使い放題ですから、とてもお得だと思いますけど」と強く勧められると、Bさん自身も「たしかにそれは得だな」と納得してしまった。
だが、ここにも落とし穴があった。2倍ちょっとの料金で7倍使えるというとものすごく得な気がする。たとえば、週1日コースが月4500円なのに対して、週7日コースが9900円だとすると、週7日コースが非常にお値打ちに感じられる。ここにも対比効果が働いている。ほんとうは2倍以上も払うのに、安く感じられるのである。
説得で駆使されるドア・イン・ザ・フェイス・テクニック
このような対比効果を用いた説得は、ドア・イン・ザ・フェイス・テクニックを応用したものだ。これは初めにわざと過大な要請をしたり、ハードルの高い条件を提示したりすることで、本来の要請や条件を受け入れさせようという心理テクニックである。