8年間の準備期間を経て、1995年6月に東京・代々木上原に筆者がオープンさせた、日本初のオーガニックレストラン「キヨズキッチン」でしたが、当初はまったくといっていいほど相手にされず、見向きもされず、鳴かず飛ばずで、苦しい立ち上がりでした。その年は、阪神淡路大震災で幕を開け、3月から5月にかけて起こった一連のオウム真理教事件の影響で、世の中には不穏な空気が立ち込め、しかもバブルがはじけた後の虚しさが漂うという、飲食店をオープンさせるには最悪の時期でもありました。
オウム事件の影響もあってか、「オーガニック」と表明しただけで、「何か宗教がバックについているんじゃないか」と邪推されたりもしました。
95年当時、まだオーガニックという言葉が一般的に知られる前だったので、どういう店なのかわからず、不安に思われたのでしょう。その頃から筆者は、「もうすぐオーガニックの時代が来る」と吹聴していました。確信を持って言っていたのですが、実際にはオーガニックの時代は到来していないので、結果的に筆者は“ホラ吹き”になってしまいました。
2000年を境に世の中は大きく変わると本気で思っており、農薬や化学肥料まみれのおいしくない野菜に消費者は飽きるだろうと考えていました。しかし、そうはなりませんでした。いまだに多くの消費者が、まずい野菜を文句も言わずに食べています。
オーガニックの時代になるどころか、あの頃よりも後退、逆行してしまったのではないかと思える事態が頻発しております。アメリカやヨーロッパでは、どんどんオーガニックの市場が広がり、安全な食材も手に入りやすくなっていると聞きますが、日本では安全な食材や食品を求める人の絶対数が少ないため、それを扱う店舗の数も一向に増えません。
日本のオーガニックが発展しないのは、消費者の無理解・無関心と、その延長線上にある無責任の「三無」だと筆者は以前から述べてきましたが、実はその背後にあるメディアに問題の根っこがあるのです。メディアが報じないので、日本の消費者は自分たちが劣悪で危険なものを食べていることを知らないのです。要するに、真実が伝わっていないのです。