認知症の貼り薬をシップだと思ってしまい残念な結果に
認知症の貼り薬が発売された当初のことです。今までは飲み薬が1種類しかなかったため、その薬を飲むしかありませんでした。認知症の患者さんは本人が物忘れについて自覚しているとは限らないので、「なぜ薬を飲まなくてはならないの?」と薬を飲んでくれないケースが多発していました。それを改善する画期的な薬が、認知症の貼り薬だったのです。
「飲む」という行為は本人の自発的な行為でしかできないのですが、「貼る」という行為は他者がやることができます。本人が意識しようとしまいと、貼れるのです。それにより確実に薬を使うことができるようになります。飲んだか、薬を捨てたかわからなかったものが、貼っているのを見れば薬を使っているのがわかるというのも利点です。
私が勤務する薬局に、認知症患者の家族が薬を受け取りに来たときのことです。話によると、本人の物忘れがひどいし、暴力が出てきたので介護をするのがつらいということでした。新しい薬だと医師から聞いているので、この状況がなんとかなるかもしれないと期待しているそうです。「シップだからとウソをついてでも貼ります!」と家族の方は意気込んでいました。この薬は貼れば効くので、どんなことをしてでも貼ってほしいと思い、この日の服薬指導は終えました。
次の日、本人から電話がかかってきました。「このシップ、全然痛みが取れないじゃない!」とものすごい剣幕でした。この修羅場を切り抜けたものの、貼り薬による治療は中止になってしまいました。このまま無治療の状態が続けば、さらに症状は悪化していくことが予想されます。今では他の説得の方法を身につけていますが、当時は説得術を見つけていなかったのです。
貼った場所と効果が出る場所が違う
長い間、貼り薬はシップしかなかったのですが、技術が向上したことで飲むよりも効果が高い薬が出てきました。薬を飲むと、消化吸収の過程を経て全身循環に入り、期待する場所へたどりつき効果を発揮します。しかし、貼った時は皮膚から直接全身循環に入り、期待する場所へたどりつくことができます。消化吸収の過程がないので、食べ物の影響もないですし、全身循環に入るまでの薬のロスが減るのです。水を飲まなくても薬が使えるので、水分制限をしている方にも便利です。