しかし、皮膚という人間にとって最大のバリアを通過しないといけないので、貼ればすぐ効くわけではありません。最新の技術を使ったとしても、皮膚バリアを突破できない薬はまだあります。そのため、皮膚バリアが比較的弱い部分に貼るよう指示をします。例えば、気管支を広げて呼吸を楽にする「ホクナリンテープ」は胸、背中、上腕の内側のどこかに貼ります。決して気管支の上に貼るわけではありません。認知症の貼り薬は背中に貼るように指導しています。胸だと本人が無意識にはがす可能性が高いので、手の届かない背中がよいのです。
貼り薬では、病気の原因となっている場所に貼ることで悲劇も生まれています。狭心症治療薬「フランドルテープ」です。「心臓のテープ」と呼ばれており、貼る場所は胸、背中、お腹のどこかです。薬局では貼る場所がわかる紙をお渡しして指導をしているものの、「心臓のテープを毎日貼っているとかぶれてしまうので、使っていなかった」ということでした。貼り薬の欠点はかぶれです。これは、どの薬でも共通して存在する副作用です。
ある患者さんに「貼る場所は毎日変えていますか?」と質問をすると、「何を言っているんだ?」という表情で「心臓の場所に貼っている」と答えてくれました。そこでもう一度、貼る場所がわかる紙を見せて「心臓の上でなくても、胸、背中、お腹ならどこに貼ってもいいのですよ。毎日同じところに貼るとかぶれてしまうので、違うところに貼るようにしてください。貼らない日が続くと心臓の負担が増えてしまうので、薬は毎日貼るようにしてください。それでもかぶれるのなら、次回一緒に考えましょう」と指導をしました。
また別の患者さんですが、この「フランドルテープ」を心臓が痛い時だけ貼っていました。「痛いところに貼れば治る」というのはシップの場合です。痛くならないように毎日貼って心臓の負担を減らしておくのが、この薬を使う目的なのですが、シップと同じ考えで使ってしまっていたのです。この患者さんは、幸いほかの場所には貼っていなかったのですが、シップ感覚で腰やひざに何枚も貼っていた例があったそうです。これでは過量になってしまい、副作用が出てしまいます。貼った場所だけに効く薬ではないからです。
貼ってすぐ効くわけではないからこその利点
薬が皮膚バリアを通過するのに時間がかかることを利用すれば、ゆっくり長く効く薬をつくることができます。薬自体の放出を抑えるように工夫する技術も進んでいます。それにより、飲み薬だったら1日何回も飲まないといけなかったものが、1日1回貼ればいいというケースも生まれています。今まで飲み薬だったものが、貼り薬に置き替わっているのです。
「ホクナリンテープ」にしても「フランドルテープ」にしても、飲み薬だったものが、貼り薬として利用されています。最新の薬でいうと、アレルギー性鼻炎治療薬も貼り薬があります。使用法に注意して、より多くの人々に貼り薬のメリットを享受していただきたいと思います。
(文=小谷寿美子/薬剤師)