輸入オレンジやグレープフルーツ、危険な農薬検出→厚労省が食品添加物として次々認可
スーパーマーケットの果物売り場に行くと、オレンジ、レモン、グレープフルーツ、ライム、スウィーティ(グレープフルーツとブンタンの交配種)などの柑橘類が多く陳列されています。これらのほとんどは、アメリカ、オーストラリア、メキシコ、イスラエルなどの海外から輸入されたものですが、輸送の際に腐敗したりカビが生えたりするのを防ぐ目的で、食品添加物の防カビ剤(防ばい剤)が使われています。
現在、防カビ剤は、OPP(オルトフェニルフェノール)、TBZ(チアベンダゾール)、イマザリルなど、全部で9品目の使用が認められています。いずれも、もともとは農薬として使われていたもので、危険性が高いのです。
実は防カビ剤をめぐっては、摩訶不思議な出来事がいくつもあるのです。1975年4月、農林省(現農林水産省)が、アメリカから輸入されたグレープフルーツ、レモン、オレンジの検査を行ったところ、グレープフルーツからOPPが検出されました。この時、日本ではOPPは食品添加物として使用が認められていなかったので、これは食品衛生法違反でした。
そこで、厚生省(現厚生労働省)は輸入した業者に対して、違反している柑橘類を廃棄するよう命じました。それらは海に捨てられましたが、アメリカ国内では、この措置に対して怒りの声が沸き上がりました。同国で流通が認められている果物が、日本で廃棄されたからです。
その後、アメリカ政府はOPPの使用を認めるように日本政府に圧力をかけてきました。当時の農務長官や大統領までもが、日本政府の首脳にOPPを認可するように迫ったといいます。OPPは、柑橘類を船で輸送する際に発生する白カビを防ぐのに必要だったからです。
この頃、日米間では貿易摩擦が起こっていました。日本から自動車や電化製品がアメリカに大量に輸出され、貿易のアンバランスが生じていたのです。米政府は、その見返りに牛肉と柑橘類の輸入拡大を求めていました。
もし、日本政府がOPPを認可しなければ、アメリカ側が柑橘類を輸出できず、米政府はそのことを非関税障壁として、対抗措置を講じることが考えられました。つまり、日本の自動車や電化製品の輸入を制限する可能性があったのです。
そのため、OPPを認可するか否かは、「政治的判断」に委ねられることになり、結局、1977年4月に厚生省はその使用を認可したのです。その際、OPPにNa(ナトリウム)を結合させたOPP-Naも一緒に認可されました。
さらに、翌1978年にはTBZ(チアベンダゾール)も防カビ剤として認可されました。OPPとTBZを併用すると、防カビ効果が一段と高まるからです。
動物実験で発がん性等の懸念
厚生省が認可したとはいえ、OPPは農薬として使われていたものなので、その危険性を危惧した東京都立衛生研究所(現東京都健康安全研究センター)の研究者が、安全性を確認するために動物実験を行いました。OPPを1.25%含むえさをラットに91週間食べさせたのです。その結果、83%という高い割合で膀胱がんが発生しました。これは、OPPには発がん性があるということです。
ところが、厚生省はこの結果を受け入れようとしませんでした。「国の研究機関で追試を行う」として、その結果を棚上げにしてしまったのです。そして、追試を行った結果、がんの発生は認められなかったとして、OPPの使用を禁止しませんでした。
一方、東京都立衛生研究所では、TBZも危険性が高いと判断し、マウスに対して体重1kg当たり0.7~2.4gを毎日経口投与するという実験を行いました。その結果、おなかの中の子どもに外表奇形と骨格異常(口蓋裂、脊椎癒着)が認められました。つまり、TBZには催奇形性があることがわかったのです。
しかし、厚生省はこの実験結果も受け入れませんでした。そのため、TBZは今でもOPPと同様に使用が認められているのです。
さらに1992年にはイマザリルが防カビ剤として認可されましたが、その経緯は信じられないようなものでした。この当時、アメリカから輸入されたレモンについて、ある市民グループが独自に検査を行ったところ、農薬が検出されました。それが、イマザリルだったのです。レモンが腐ったり、カビが生えないようにする目的でポストハーベスト(収穫後の農薬使用)として使われていたのです。これも法律に違反していました。
その際、厚生省は、なんとすぐさまイマザリルを食品添加物として認可してしまったのです。そのため、輸入柑橘類にイマザリルが残留していても、法律違反にはならないことになりました。こうしてイマザリルを使用した柑橘類が堂々と輸入されるようになったのです。
なお、イマザリルは動物実験の結果から、神経行動毒性を持ち、繁殖・行動発達を抑制することがわかっています。
農薬を次々に防カビ剤として認可
厚生労働省は、その後も次々に農薬として使われていた化学合成物質を防カビ剤として認可しています。
まず2011年にフルジオキソニルが認可されました。糸状菌に対して制菌作用があるため、防カビ剤としても使用が認められたのです。しかし、マウスに対してフルジオキソニルを0.3%含むえさを18カ月間食べさせた実験では、高い頻度で痙攣が発生し、リンパ腫の発生率が増加しました。
さらに2013年にはピリメタニルが認可されましたが、ラットに対してピリメタニルを0.5%含むえさを2年間食べさせたところ、甲状腺に腫瘍の発生が認められました。つまり、発がん性の疑いがあるということです。
また同じ年にアゾキシストロビンが認可されましたが、ラット64匹にアゾキシストロビンを0.15%含むえさを2年間食べさせたところ、13匹が途中で死亡し、胆管炎や胆管壁肥厚、胆管上皮過形成などが認められました。ちなみに過形成とは、組織の構成成分の数が異常に増えることで、腫瘍性と非腫瘍性があります。
また、今年になってプロピコナゾールが認可されました。これも、もともとは農薬です。マウス50匹に対して、プロピコナゾールを0.085%含むえさを18カ月間食べさせたところ、12匹に肝細胞腫瘍が認められました。つまり、発がん性の疑いがあるということです。
東京都健康安全研究センターでは、毎年市販されているオレンジ、レモン、グレープフルーツ、ライムなどについて、防カビ剤の検査を行っていますが、果実全体からはOPP、TBZ、イマザリル、ピリメタニル、アゾキシストロビン、フルジオキソニルなどがppmレベルで検出されています。また、それらの防カビ剤は一部の果肉からも検出されています。
通常、オレンジやレモンは透明の袋に入っていることが多く、防カビ剤が使われている場合、袋やそれに貼られたシールにTBZやイマザリルなどの具体名(物質名)が表示されています。
グレープフルーツなど、ばら売りされているものについては、プレートを設置したり、ポップを立てたりして、それらに使われている防カビ剤の具体名が表示されています。
防カビ剤が使用された柑橘類は、できれば買わないほうがよいでしょう。なお、国産のオレンジやレモンには、通常、防カビ剤は使われていません。輸送にそれほど期間がかからないため、使う必要がないからです。
(文=渡辺雄二/科学ジャーナリスト)