新型コロナウイルスの新規感染者は全国で大幅に減少し、各地で落ち着きを取り戻している。その一方で懸念されるのが、インフルエンザの流行である。SNS等では、今シーズンのインフルエンザの大流行を懸念する声が上がっている。
そこで、今シーズンのインフルエンザの動向と取るべき対策について、日本感染症学会インフルエンザ委員会委員長で倉敷中央病院(倉敷市美和)副院長の石田直医師に聞いた。
「正直なところ、インフルエンザの流行について予測することは非常に難しいのですが、例年、北半球の冬季のインフルエンザ流行予測をするうえでは、南半球の状況を参考にしています。南半球のオーストラリアでは、今季の流行シーズンにおいて、インフルエンザの感染者数は非常に少ない状況にあり、北半球でも流行しないのではと考えることもできます。
しかし、WHO(世界保健機関)の報告によると、今夏からバングラデシュではB型(ビクトリア)、インドでは A型(H3N2)の小流行を認めています。また、中国では昨年からB型インフルエンザの小流行が続いています」(石田医師)
新型コロナウイルスの感染が収束傾向を見せている今だからこそ、こうしたアジア諸国のインフルエンザ流行が日本に及ぼす影響は大きいと予測される。
「COVID-19(新型コロナウイルス)の感染対策として国内の人流抑制、国際的な⼈の移動の制限等が行われていましたが、新規感染者の減少により制限が解除され、海外からの人の往来が活発になれば、日本にインフルエンザウイルスが持ち込まれ、感染が広がる可能性は否定できないと思います」(同)
昨シーズンはインフルエンザの流行がなかったことで、今シーズンは多くの人がインフルエンザウイルスに感染しやすいことが予想されるという。
「多くの人がインフルエンザウイルスの免疫を持たない、もしくは低下していると想定され、インフルエンザウイルスに感染しやすいと考えられます。これは、今年の夏に流行したRSウイルスで見られた現象と同様で、昨年はRSウイルスが流行せず、免疫を持たない小児が多かったために感染しやすく、流行の一因になったと考えられています」(同)
ワクチンで免疫を獲得することの重要性
インフルエンザウイルスは変異を繰り返すことも知られているが、わずかな変異であれば、以前に感染し免疫を獲得している人は感染・重症化しにくいという傾向がある。そこで重要となるのは、ワクチン接種である。しかしながら、ワクチン原材料と製造設備の不足が世界的に深刻化しているという報道もあり、今年のインフルエンザワクチンの供給量には不安がある。
「昨年の製造量に比べ2割程度少ないことから『ワクチン不足』と言われるのかもしれませんが、例年通りのワクチン供給があり、問題ないと思います。しかし、今年はCOVID-19ワクチン製造の影響でインフルエンザワクチン製造に遅れが出ているようです。したがって、重症化リスクが高い方を優先してワクチン接種を進めてほしいと思います」(同)
ワクチンは重症化を防ぐために重要ではあるが、万能ではないことも認識しなければいけない。
「特に高齢者ではワクチンの効果は低い傾向にあり、インフルエンザに感染した場合は、インフルエンザ肺炎で重症化する恐れがありますので、普段からの予防対策も重要となります」(同)
間もなく、3回目となる新型コロナウイルスワクチンの“ブースター接種”が開始されるが、同時期にインフルエンザワクチンを接種することは問題ないのだろうか。
「新型コロナワクチンとインフルエンザワクチンは、日本では安全を期して2週間空けて接種することにしていますが、アメリカなどでは同時接種していますし、安全性に問題はありません」(同)
ワクチンに関しては、さまざまな「とんでも情報」が出回るが、そういった嘘に惑わされることなく新型コロナワクチンとインフルエンザワクチンの接種を行ってほしい。
(文=吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト)