薬の副作用といえば「薬疹」です。この発疹ができると薬に対する恐怖心が生じます。今まで対岸の火事だったものが、まさに自分事としてやってくるのです。この薬疹が出やすい薬で有名なのが、抗生物質と消炎鎮痛薬です。それ以外にもありますし、むしろすべての薬で薬疹が起こる可能性があります。今回はこの薬疹の話です。
ある患者さんが、病院の問診票に「ピリン系」アレルギーと書きました。のどが痛いと受診して抗生物質、消炎鎮痛薬、痰切りの薬が処方され、それを持って私が勤務する薬局にいらっしゃいました。初めて当局を利用される患者さんだったので、問診票の提示をお願いすると、「ピリン系」アレルギーと書いてありました。
その経緯を聞くと、数年前に歯医者でもらった薬を飲んだら薬疹が出たそうです。「具体的な医薬品名は覚えていますか?」と尋ねると「覚えていない」とのこと。「お薬手帳には書いてありますか?」と聞くと「今日は忘れた」と言い、「あ!」と患者さんが思い出したようで「家に帰ればわかると思います!」と答えてくれました。「それなら一度家に帰ってわかるものを持ってきてください」と患者さんを帰宅させ、その後持ってきた薬がなんと「セファクロル」という抗生物質でした。
抗生物質によるアレルギーで起こった薬疹を「ピリン系」アレルギーと表現していたのです。病院にその経緯を報告しました。
「副作用が出た薬についてですが……」
「ピリン系と聞いています」
「それが、患者さんの勘違いのようで、実際にお薬手帳を家に取りに戻ってもらったんです。そしたらセファクロルでございまして、今回処方の抗生物質の変更をお願いできますでしょうか?」
ということで無事、抗生物質が変更され事なきを得たのです。その後、患者さんにピリン系ではないことと、セファクロルで薬疹が起こったことを改めて説明しました。お薬手帳に貼れるようにメモを書いて、これを表紙に貼るようにお伝えしました。
勘違いが起こる原因
わたしたちは「自分の辞書」を持っています。わかりやすい例でいうと、「菅義偉」という名前を引くとします。そうすると「第99代内閣総理大臣。令和おじさん。コロナ対策で後手後手に回り感染を広げ、無能」という説明が出てくる人がいます。一方で「第99代内閣総理大臣。令和おじさん。ワクチン生産国ではないにもかかわらず、ワクチン生産国以上の接種率を達成、有能」という説明が出てくる人がいます。同じ言葉でも、辞書が違えば説明が違うのです。
その患者さんは「薬疹」という辞書を引くと「薬によって起こる全身の発疹。ピリン系アレルギーのこと」という説明が出てきてしまったのです。それで「ピリン系」と問診票に書いてしまったのです。しかし、専門家は違います。この「ピリン系」を辞書で引くと「ピリン骨格を持つ解熱鎮痛薬」なのです。これにより、ピリンでない鎮痛薬を処方すればいいという行動につながります。
「個別事象の一般化」ということを考えておく必要があります。たとえば、「マキロンください」という患者さんが、マキロンの形をした消毒薬が欲しいだけで、マキロンそのものが欲しいわけではないことがあります。「バンドエイドください」もしかりです。決してバンドエイドが欲しいわけではなく、同じ形の絆創膏が欲しい場合があります。実際にそういう患者さんは、バンドエイドではなく徳用キズテープを買っていきます。
薬疹のなかで「ペニシリン系」と「ピリン系」が有名すぎるので、「薬疹=ペニシリン系」「薬疹=ピリン系」と考えてしまいがちです。ほかには、「ピリン系」と本人が表現しているものが、実際には「ボルタレン(ジクロフェナク)」ということがあります。これにより現場は大混乱してしまうのです。
副作用がある薬を正確に伝える
被害を防ぐためには、日頃から「お薬手帳」を持ち歩き、すべての薬の記録を残しておくことが必要です。そして副作用が出た薬については該当するページに〇で囲って「薬疹出た」と記入しておきます。その上で、該当する薬を表紙裏に転記します。ここでの転記ミスは許されません。自分の命を守るという覚悟で記入してください。ここまですれば、誰が見ても勘違いは起こりません。薬については命にかかわることですので、「正しく認識し正しく伝える」ようにしてください。
(文=小谷寿美子/薬剤師)