知られざる“果物”アボカドの秘密…脂質量はサーロインステーキ並み?白血病治療に寄与も
「アボカド」はメキシコ原産の果物で、メキシコ・プエブラ州の洞窟で1万2000年前にアボカドを栽培した痕跡が発見されています。作物として集団栽培されていた記録が残っているのは5000年前以降です。その後、13世紀頃にはアステカ人が栽培技術を引き継ぎ、16世紀にスペインがメキシコを征服した時代においても、広範にアボカドの栽培が行われていたといいます。
スペイン王フェリペ2世時代の歴史家、サンフランシスコ・ヘルナンデスはアボカドについて記録を残しています。ヘルナンデスは歴史家であると同時に医師でもあり、アボカドの効能を食欲増進、精液増幅と記述しました。また、種子から摂れる油は傷や発疹に効くとしています。当時、メキシコを植民地としていたスペイン人はアボカドを健康食品と考えて積極的に栽培し、一部は精力剤として欧米各国に広がっていきました。
メキシコは現在、世界最大のアボカド生産国で年間100万トンものアボカドを生産し、40万トン程度を輸出しています。輸出先の第1位は米国、そして日本はなんと第2位で7万トン弱、輸入量の9割をメキシコから輸入しています(2017年)。
アボカドは野菜ではなく果物ですが、糖分やデンプンがほとんど含まれない珍しい果物です。一方で、脂質含量は20%にもおよび、サーロインステーキにも匹敵します。これは、カロリーを多く消費する大型動物に好まれるよう進化した結果だという説もあります。
アボカドは独特のにおいがしますが、においの原因は果肉の脂肪酸が収穫後の熟成によって分解されてできたものです。脂肪分の多いアボカドの果肉はクリーミーですが、レストランでサラダに入っているアボカドは、切っても形を保てる脂肪分の少ない品種が使われます。硬めのアボカドをサラダと合わせると、野菜の繊維質とアボカドのまったりとした舌ざわりが絶妙なハーモニーを生み出すとともに、野菜食だけでは不足しがちな必須脂肪酸を、肉を食べることなく摂取することができます。
アボカドは加熱すると苦み成分が生成し卵臭くなるので、野菜サラダにするのはアボカドをもっともおいしく食べられる調理方法だといえます。
アボカチンBが白血病の治療効果を高める可能性
そんなサラダの絶妙な引き立て役のアボカドですが、順天堂大学がアボカドから抽出した成分の脂肪酸「アボカチンB」が白血病がん細胞の脂肪酸代謝を阻害して細胞の増殖を抑制すること、さらに、白血病抗がん剤との併用により白血病の治療効果を高める可能性があることを発見して話題になっています。
白血病がん細胞は骨髄の中で増殖したり、抗がん剤への抵抗性を獲得したりしています。抗がん剤抵抗性獲得において、細胞は周辺の脂肪酸を取り込んでミトコンドリアがエネルギー源として利用し、細胞が活性化、つまりパワーアップします。そこで、脂肪酸を利用できなくして白血病細胞を弱らせたところに抗がん剤を投与すれば治療効果が高まるのではないかと予測して研究に着手し、アボカチンBにたどり着きました。
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