オミクロン株の出現により、さらに長引くコロナ禍で社会も人も疲弊し、ストレスは溜まる一方です。加えて、今年の花粉予報では昨年より飛散量が多いとされ、花粉症のある方にとっては、ますます憂鬱なシーズンが始まっています。
筆者もかつては重度の花粉症でしたので、そのつらさはよくわかります。くしゃみ、鼻水、鼻づまりなどの症状は新型コロナの初期症状と重なることもあって、コロナ感染なのかどうかの判別もしづらく、本人はもとより周囲の人も対応に戸惑うばかりです。
筆者はありがたいことに、今では花粉症に悩まされることなく過ごせています。それは成人になって再発した娘のアトピー性皮膚炎を治すために我が家の食生活を、必須脂肪酸バランスを整えた「少油生活」に変えたためです。その結果、娘のアトピーはもちろん、重度の冷えや体の怠さも解消され、それまで30年以上苦しんでいた私の花粉症も、ほぼ消失したのです(詳細は『植物油を断てば体調や病気が劇的に改善!現代人は「油まみれ」の食生活に要注意?』をお読みください)。
花粉症やアトピー性皮膚炎などのアレルギー発症は、食事から摂る必須脂肪酸のバランスの偏りが大きな原因のひとつですが、こうした事実があまり知られていないため、花粉症デビューする人は性別年齢を問わず毎年出現し、花粉症やアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患は増えるばかりです。
知って得する必須脂肪酸バランス
必須脂肪酸とは、体に必要な脂肪酸でありながら体内で合成できないため、それらを含む食材や食品から摂取しなければならない必須の栄養素です。「オメガ3脂肪酸」と「オメガ6脂肪酸」に大別できます。
オメガ3脂肪酸:アルファリノレン酸、EPA、DHA
オメガ6脂肪酸:リノール酸
厚生労働省や脂質栄養の専門家が“適正の目安”とする必須脂肪酸バランス比は、オメガ3脂肪酸とオメガ6脂肪酸がそれぞれ1:4~1:1で、この範囲に収まっていれば問題はないとされています。しかし、現代人の食生活では、オメガ6脂肪酸は過剰摂取になりやすいのが実情で、この状況が花粉症やアトピーのアレルギーだけではなく、糖尿病、高脂血症、がん、心筋梗塞、脳梗塞、うつ、認知症など広範囲に及ぶ病気を引き起こす一因であると報告されているのです(参考資料:日本資質栄養学会「油脂(あぶら)の栄養革命が進行中なのは、ご存じですか?」)。
オメガ6脂肪酸過剰摂取になってしまうワケ
オメガ6脂肪酸(リノール酸)は、ほとんどの食材、食品に含まれています。特に大豆とその製品(豆腐、納豆、枝豆など)や肉類など現代人が常食するものに多く、なかでもどの家庭にも常備してあるサラダ油、キャノーラ油、ごま油、マーガリンなどの植物油、人気のマヨネーズはリノール酸の含有量が多いため、どうしても過剰摂取になりやすいのです(下記グラフ参照)。
もう一方のオメガ3脂肪酸のうちアルファリノレン酸が多いのはアマニ油やエゴマ油で、DHA、EPAが多いのは魚類です。ほかの食品に含まれていても微量なので、魚食やアマニ油などを使わないと不足がちになってしまいます。
つまり、必須脂肪酸バランスを良くするには、過剰になりやすいオメガ6脂肪酸を減らし、不足しがちなオメガ3脂肪酸を増やすことが必要なのです。必須脂肪酸バランスの整った「少油生活」に切り替えた筆者と家族は、花粉症やアトピーから開放されたのです。
必須脂肪酸バランスチェック
必須脂肪酸バランスは、血液を採取して脂肪酸4分画検査をしてもらえば正確に数値化されますが、以下の項目を自分の食生活に当てはめてチェックすることで、必須脂肪酸バランスの傾向がわかります。
【オメガ6脂肪酸摂取状況チェック】
※チェックの数が多いほどリノール酸の過剰状態が疑われます。
・揚げ物をよく食べる(唐揚げ、コロッケ、トンカツ、天ぷら、ポテトフライなど)
・調理に炒めものが多い(餃子、肉野菜炒め、ハムエッグ、焼きそば、パスタなど)
・魚介類より肉類を食べることが多い
・ファストフードを食べることが多い(ハンバーガー、フライドチキン、ピザ、ドーナッツなど)
・スナック菓子をよく食べる(ポテトチップスなど)
・和菓子より洋菓子をよく食べる(クッキー、チョコレート、ケーキなど)
・バターよりマーガリンをよく使う
・マヨネーズをよく使う
・サラダ油やキャノーラ油、ごま油をよく使う
・ノンオイルではないドレッシングをよく使う
【オメガ3脂肪酸摂取状況チェック】
※チェックの数が少ないほどオメガ3脂肪酸の摂取不足が疑われます。
・魚をよく食べる
・アマニ油やエゴマ油などオメガ3系の油をよく使う
・オメガ3脂肪酸(アルファリノレン酸、DHA、EPA)系のサプリを摂っている
オメガ6脂肪酸摂取のチェック項目が多く、オメガ3脂肪酸のチェック項目が少ないのは意図したことではなく、現代人の「普通の食事」を観察していると、どうしても油脂を使った食品が多いため、リノール酸摂取のチェック項目が多くなってしまうのです。揚げ物が好きで“マヨラー”だった、かつての筆者もリノール酸過剰の食生活でした。
必須脂肪酸バランスを改善しよう
必須脂肪酸バランスを改善するには、摂り過ぎのオメガ6脂肪酸を減らし、不足しがちなオメガ3脂肪酸を増やすというシンプルな策しかありません。
外食や中食(惣菜やコンビニ弁当など)をする際には、加工食品の場合は油の少ないものを選べばよいのですが、実はこれがとても難しいのです。油を使っていない食べ物は非常に少ないですし、外からではわからない“隠れ油”も多いのが実情です。したがって、「外食や中食の時は、できるだけ油の少ないものを選びましょう」としか言いようがありません。
ただ、最近の大手外食産業やファストフード店で使われる業務用油は、パーム油とサラダ油などの混合油が多くなってきています。パーム油は食卓ではあまり馴染みがないですが、トランス脂肪酸低減対策として使われだしました。また、比較的リノール酸が少ないので、外食でのリノール酸摂取量は以前と比べれば少し減っているとも考えられますが、油断大敵です。パーム油そのものの安全性を疑問視する報告もあるので、油脂食品を控えめにすることが大切です。
家庭の油が一番危ないが、コントロールもしやすい
なんといってもオメガ6脂肪酸の含有量が多いのは、家庭でよく使うサラダ油、キャノーラ油、ゴマ油などの植物油と、それらを原料にしたマーガリンやマヨネーズです。逆にいえば、これらを減らすことで、オメガ6脂肪酸の摂取量はコントロールしやすくなります。
下記のグラフは、家庭でよく使われる食用油脂とオメガ3脂肪酸の多いアマニ油(エゴマ油もほぼ同じ)を比較したものです。それぞれ大さじ1杯(12g)に含まれる量なので、赤の多い油を減らし青の多い油を増やすことで、必須脂肪酸バランスはコントロールできるのです。
それぞれの摂取目安量は、2020年版「日本人の食事摂取基準」(厚生労働省)に掲載されており、成人の1日あたりの摂取目安は、オメガ6脂肪酸が8~11g、オメガ3脂肪酸が1.6~2.2gとされています。
目安は、ほかの食材を含めた1日の食事全体からの摂取量なので、家庭で使うオメガ6脂肪酸の多い油をコントロールすることが、摂取バランスを左右するキモといっても過言ではありません。文字通り大さじ1杯分のさじ加減が重要なのです(参考資料:農林水産省「脂質による健康影響」)。
次のグラフは、主な肉類と魚(例として鮭、サバ缶水煮)の必須脂肪酸の含有量を表したものです。肉類はオメガ6脂肪酸が多い上に揚げ物など油料理の食材となりますので、肉食が多く魚食が少ないとオメガ6脂肪酸過剰となります。外食でも家庭でも、肉食に偏らず、魚を意識して食べるようにすることも必須脂肪酸バランスの改善に欠かせません。
「日本人の食事摂取基準」では1日あたり1g以上のDHA、EPAを摂取することを推奨しています。
サバやイワシ、サンマの缶詰はDHA、EPAが豊富で、オメガ3脂肪酸を手軽に摂取できます(ただし、ツナ缶のオイル漬けはDHA、EPAは微量で、避けるべきオメガ6脂肪酸が多いのでNGです)。
最近はオメガ3脂肪酸が“体に良い脂肪酸”として広まりつつあり、とても良いことだと思いますが、過剰摂取のオメガ6脂肪酸を減らすことの重要性は広まりません。
テレビや新聞など大手メディアは、オメガ6脂肪酸の多いサラダ油やキャノーラ油、マヨネーズを控えましょうとは報じません。いずれのメーカーも大スポンサーだから忖度しているのです。大手メディアにとってオメガ6脂肪酸過剰摂取問題に触れることは一種のタブーなのです。こうして必須脂肪酸バランスは、オメガ6脂肪酸過剰に振れたままなのです。
必須脂肪酸バランスを整えることは、花粉症やアトピー対策だけに限らず、コロナ禍の健康維持にも役立ちます。この機会に必須脂肪酸バランスを整えた「少油生活」を実践することをお勧めいたします。
身の回りの食品に潜む「隠れ油」と植物油の安全性については、ぜひ拙著をお読みください。
(文=林裕之/植物油研究家、林葉子/知食料理研究家)