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「フィンランドは夏休み1カ月&大自然のコテージ」は幻想?実際は海外旅行が主流

文=A4studio
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フィンランドの首都・ヘルシンキ(「Wikipedia」より)

 夏には白夜が訪れ、その時期は太陽が沈まないことでも有名な北欧のフィンランド。国を挙げて国民の働きやすさを追求しており、国連が毎年発表している「世界幸福度ランキング」で5年連続1位に輝いていることもあるため、フィンランド人はみな悠々自適な生活をしているというイメージを持つ人も多いだろう。ちなみに2022年版で日本は同ランキング54位である。

 確かに、フィンランド人はみんな1カ月ほど夏休みを取得して、大自然のなかで家族でのんびりと過ごしているというイメージも強いが、現地に住んでいるというあるTwitterユーザーが、それはすべて理想にすぎないなどと指摘し、話題を呼んでいる。

 そこで今回は、フィンランドの首都・ヘルシンキ在住の作家で『ほんとはかわいくないフィンランド』(幻冬舎)の著者であり、現在も「gentosha plus」にて『フィンランドで暮らしてみた』というコラム連載を持っている芹澤桂氏に、フィンランドのリアルな休暇事情について話を聞いた。

夏季に2週間以上の有給休暇取得が国民の義務

 まず、フィンランドの現地の企業でオフィスワークもしているという芹澤氏に、フィンランドの夏の休暇制度はどのような仕組みなのか聞いた。

「フィンランドでは夏に4週間、冬に1週間、年間で計5週間の有給休暇取得を国が定めているんです。フィンランドの夏休暇が約4週間といわれているのは、その有給休暇を夏の間に一気に消化する人が多いからでしょう。ちなみに、夏の有給休暇は4週間のうち夏の間に2週間分を消化することが義務付けられているんですが、私は2週間を夏の間に消化して残りの2週間は秋にまわしてもらうなど、分散させて休暇を取っています。

 また、一例ですがシフト制の仕事などもあるわけで、必ずしもフィンランド人がみな4週間続けて夏休暇を取っているわけではないです。仕事の進行具合で相談したり、チームのなかで休みができるだけ被らないように相談したりして、有給休暇を消化するということもあります。ですから、必ず4週間続けて休めるのは学校の教師といった一部の職業に限られているんです」(芹澤氏)

 しかし、国が主導して夏季に2週間以上の有給休暇取得を義務付けているなど、やはり日本とは大きな違いを感じる。

「フィンランドには夏至祭という、夏至近くのキリスト教の聖ヨハネの日に関連したお祭りがあります。その関係で6月後半の金曜日から日曜日にかけて祝日になるので、その6月後半から夏休暇をスタートさせて7月後半まで休みを満喫する人は多いですね。夏至をピークに日照時間が長い日が続くので、太陽光を浴びながら休暇を楽しみたいと考えている人が多いんじゃないでしょうか」(同)

「サマーコテージで大自然を満喫」のイメージは古い?

 ここまでの話を聞く限り、日本人が抱いているイメージとそこまで極端な相違はない気もするが、実際の休暇の過ごし方は我々のイメージとだいぶ異なるようだ。

「いわゆる伝統的なサマーコテージを持っている人は、休暇中はサマーコテージで過ごしてますね。サマーコテージは電気や水道が通っていないものが大半なので、おのずと森や湖でベリー摘みをしたり釣りをしたりという、ゆっくり自然を満喫する過ごし方や、読書やボードゲームなどを楽しむという過ごし方になると思います。サマーコテージで過ごす夏休暇は、日本のみなさんのイメージどおりなのではないでしょうか。

 ですが、サマーコテージを持っていない人もたくさんいますし、たとえ持っていてももっと現代的な過ごし方をしている人々も多いんです。今は国外への旅行が安価で楽しめるので、若者を中心に夏季休暇はフィンランドを飛び出して国外で過ごす人がとても増えています。フィンランド国内のホテルに泊まると、日本円にして1泊あたり1万円はかかってしまうんですが、例えばギリシャやスペインにリゾートで行くと、宿泊費はかなり安くできますからね。

 また、スマホを持っているような現代っ子たちが、いきなりコテージや山小屋に連れて行かれ、電気が通っていないので当然Wi-Fiも飛んでいないような場所で、さあ大自然で遊びましょうと言われて喜ぶかというと、そうでもないですよね。今の親世代のなかには、自身が魚釣りをしたことがないという人も少なくないですし、親がしたことがなければ子に釣りを教えることもできませんので、フィンランド人の多くが釣りなどをして夏を優雅に過ごしているというイメージは、過去のものといえるでしょう。

 40年ぐらい前は、国民の意識が保守的で、なおかつ経済的に貧しかったのもあって、国外への旅行にはあまり行かず、サマーコテージで過ごすのが主流だったと思います。当時はサマーコテージを買うのも手頃な価格で、裕福でなくともサマーコテージで過ごすという家庭が普通だったようです。ただ現在はEUに加盟し通貨がユーロになった影響もあり、欧州の国々には特に気軽に行けるようになったので、国外に旅行するという楽しみ方が主流になりつつあるように感じます」(同)

 フィンランドの国民も、若い世代ほど夏休暇の過ごし方が変わってきているということか。

「『サマーコテージで自然を楽しむ』といった夏休暇のイメージが強いのは、国外からお客さんが来たらサウナ付きコテージに連れていくという“おもてなし”をするケースや、国外からの観光客があえて好んでコテージに泊まるケースもあるので、そのイメージがいまだに残ったままなのではないでしょうか。日本に来る外国人観光客も和風の旅館に泊まって、畳に布団を敷いて浴衣で寝ることで日本らしさを満喫しますが、実際の日本人の暮らしはもうガラリと違うわけです。それと同じようなもので、フィンランドの人々がみな大自然のなかのサマーコテージで過ごすわけではないということです」(同)

やはり日本人と大きく違うフィンランド人の仕事観

 フィンランドの人々は普段から残業を極力避け、オンとオフの切り替えがはっきりしている印象があるが、実際に労働に対する意識はどのようなものなのか。

「私の友人・知人といったあくまで私の周囲の人々の話になりますが、やはり仕事よりも休暇が大事と考えている人のほうが圧倒的に多いですね。日本人は仕事にやりがいを持っていたり、仕事を最優先にしていたりする人も多いと思いますが、私のまわりのフィンランド人はその逆で、休暇のために働いているという価値観だと思います。

 残業に関しては、極力しないようにしていますが、まったくしないというわけでもありません。ただ、これも日本の会社や日本人の価値観とは違うと思いますが、フィンランド人はそもそも残業をしないような量で仕事を請けるんですよね。自身で調整していくため、残業が発生するのは自分の落ち度で、予定どおり仕事をこなせなかった自分の能力不足という認識なんだと思います。日本の場合は上司や先輩から指示された仕事が、とても定時で終わらせられる量じゃなく、自分に落ち度があったり能力不足だったりするわけではないのに、残業をしなくてはならないこともあるかと思います。フィンランドでもそういうケースがないわけではありませんが、“自分で仕事量を調整して無理そうならできないというのも仕事のうち”という雰囲気があるんです。

 また、実際にあった出来事で例を挙げますと、私の会社が他社に発注した仕事があったのですが、その発注先の社員たちは業務が終わっておらず納品していないのに、そのまま長期の夏休暇に入ってしまい、プロジェクトが遅々として進まなかったことがありました。そして、発注先の社員から謝罪の言葉はないんです。きっちり休みたいと考える人が多いので、それで仕事に影響が出てしまっても仕方ないという価値観なんでしょう。誤解しないでいただきたいのですが、私はそれがダメだと言いたいわけではなく、日本人とは仕事観が違うということですね」(同)

 フィンランド人たちの夏休暇は、我々日本人が思い描くイメージや認識と大きく違わない部分もあれば、かけ離れている部分もあるようだ。いずれにしても、1年間に5週間の有給休暇取得が義務化されており、そのうち2週間以上を夏休暇にすべしと国で定めてくれているという事実を、うらやましいと感じる日本人は多いだろう。

(文=A4studio)

A4studio

A4studio

エーヨンスタジオ/WEB媒体(ニュースサイト)、雑誌媒体(週刊誌)を中心に、時事系、サブカル系、ビジネス系などのトピックの企画・編集・執筆を行う編集プロダクション。
株式会社A4studio

Twitter:@a4studio_tokyo

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