2019年時点で国内の薬局の数は6万171軒に上ります。コンビニエンスストアは5万6948店であり(21年)、薬局はコンビニより多く、だから私たちは薬局を「選ぶ」ことができます。
病院のすぐ目の前にある薬局「門前薬局」について、以前から不要だという指摘が多いです。「病院様」の処方箋をもらって生活をしている「もの乞い」のように見えてしまうのは仕方のないことで、「薬剤師」に対しても「薬の袋詰めをする人」だから不要という意見さえあります。もちろんみなさんの期待に応えられていない部分は多々あるのですが、それでも「不要」というのは言い過ぎだというのが私の意見です。
医薬分業の観点からすると門前薬局は不要
本来の医薬分業の前提に立てば門前薬局は不要です。A病院で出された処方箋の薬はA薬局で購入、B病院で出された処方箋の薬はB薬局で購入、一人の患者さんが服用する薬を複数の薬局で管理することになり、患者さんが飲んでいる「薬の全体像」が把握できないからです。また、今まで飲んでいた薬のことが知りたいときに、「この薬局に聞けばいい」とならなくなります。患者さんが使用している全ての薬局に問い合わせなければならず、病院薬剤師の負担が増えます。
あるいは「持参薬」といって患者さんにすべての薬を持ってきてもらい、それを一つひとつ精査するという負担が病院薬剤師にかかります。これでは医薬分業の意味がありません。患者さんが一つの薬局を決めてそこに通っていれば「この人の薬のことは、この薬局に聞けばいい」となり、薬局薬剤師は薬局の記録を見るだけで病院薬剤師へ報告できます。
少子高齢化と核家族化により家族のサポートが受けられない高齢者が増えています。今までは「娘にやってもらっていた」「息子にやってもらっていた」ことを、誰かがやらなくてはならなくなったのです。そのため、薬局の現場では薬剤師の仕事がどんどん増えています。ときには高齢の患者さんに電話して話を聞いたり、どうしたら薬を飲んでもらえるかを分析して解決策を提案したりしています。
門前薬局の責任
私は門前薬局とそれ以外の薬局での勤務を経験しているので、それぞれのメリットとデメリットがわかります。門前薬局には大きく分けて2つの責任があります。隣接する病院の医師が処方する薬を絶対に揃えなくてはならず、欠品は許されません。そして、医師の治療方針を完全に理解し、それに沿った服薬指導を行わなくてはいけません。加えて、医師が診療している以上、閉店時間を過ぎても薬局を閉めてはいけません。それが夜の9時だろうが10時だろうが関係ありません。
現在は以前と比べて薬が手に入りにくくなくなりました。解熱鎮痛薬の「カロナール」が消えたというニュースがありますが、それ以外にも咳止め薬が手に入りません。働き手不足の問題で、医薬品卸からの配送が1日2回から1回配送に変わったりして、当日中に手に入れることが難しくなっています。メーカーも外国工場の新型コロナウイルス感染症拡大の影響で生産が追い付かないという状況が生まれています。それでも門前薬局は絶対に薬を揃えなくてはならず、代替薬の提案などについて処方医とあらかじめ相談しておく必要があります。
門前薬局でない街の薬局の場合は、よく出るありふれた薬以外は取り寄せになりますが、時間がかかるため、今すぐに治したい患者さんの期待に応えることは難しいです。咳止め薬が処方されているものの、在庫がないため注文しても翌日になることが多々あります。これでは治るものも治りません。
一方、門前薬局の場合は、前述のとおり医師の治療方針を完全に理解してそれに沿った服薬指導を行う必要があります。医師から「副作用のことは患者さんに言わないでほしい」「早く治すために用量を少し多めしてある」「この薬はこういう目的で出しているから、必ず飲むように指導してほしい」など、さまざまな要望を受けます。一般的な薬の知識に加え、医師の治療方針と患者さんの要望をくみ取りながら服薬指導の「さじ加減」を調節していきます。
また、抗がん剤などの専門的治療においては「薬薬連携」研修といって、病院薬剤師が門前薬局の薬剤師を集めて研修をします。「病院で行う点滴治療はこのようになっていて、その副作用のために院外処方箋として便秘薬と保湿剤が出ています。薬局はそれを踏まえて指導をしてください」など、具体的な指示を受けます。そうした研修の存在すら知らない街の薬剤師と門前薬局の薬剤師の間で、患者さんへの服薬指導の内容に差が出るのは当然のことです。
門前薬局は門前薬局の役割があり、街の薬局は街の薬局の役割があるのです。ですので、みなさんは「薬局を適切に選ぶ」ということを心掛けてください。
(文=小谷寿美子/薬剤師)