目薬には防腐剤が入っているものと入っていないものがあります。防腐剤が入っている目薬を使い続けると「角膜上皮障害」を起こすことが知られています。眼科を受診した際に「あ~、目にちょっと傷がありますね~」と言われることがありますが、これが「角膜上皮障害」です。
角膜の上皮と呼ばれる一番外側の部分は、外界と接していて傷がつきやすく、ちょっとした傷のときは自然に修復することができますが、それを放置しておくと角膜上皮の内側まで傷が深くなります。光が入る屈折率が変わってくるので、見え方に異常が出てきます。小さい傷のうちに治療をすることが大切です。
角膜上皮障害を起こすのは防腐剤だけではありません。コンタクトレンズと目の間にゴミが入り込んだり、洗浄が不十分なレンズを使用すると、角膜上皮障害を起こしやすくなります。コンタクトレンズのケアは適切に行う必要があり、定期的な受診により傷をすぐに治療することがとても大切です。
目薬の主成分そのものでも角膜上皮障害を起こすことがあります。特に「NSAIDs」と呼ばれる消炎成分は角膜上皮障害の原因となることが多いです。なお、この成分は頭痛薬に含まれていて飲み薬として市販されていますが、目薬では「プラノプロフェン」があり「マイティアアイテクト」という商品に含まれています。
防腐剤の種類はさまざまですが、目薬で使用するメジャーな成分が「塩化ベンザルコニウム」です。陽イオン四級アミンの一つです。幅広い菌に対して使用できて殺菌力も強く水溶性成分であることから、多くの目薬に使われています。健康な目の人が適切に使う分には問題ない成分なので、恐れずに使ってください。
医療用の目薬においては長期で使うことが想定されているため、このベンザルコニウムの量を極限まで減らしている製品が多いです。そのため、開封から1カ月を超えると細菌に汚染されることが確認されています。「目薬は開封後1カ月以内に使い切ってください」と服薬指導時によく言われますが、これは絶対に守ったほうがいいです。
一方で、市販の目薬を購入する場合は、そのような指導は受けません。防腐剤がしっかりと使用されていることが多いとされていますが、具体的にどれくらい入っているのかは、企業秘密がありわかりません。市販の目薬の用法用量は1回2~3滴、1日5~6回の使用となっています。これを忠実にやると15mLで1カ月相当分になります。防腐剤が入っているので、1本の目薬で2~3カ月は細菌汚染が起こらずに余裕で使うことができます。
医療用の目薬で角膜上皮障害が起こる例
ソフトコンタクトレンズ装着時に防腐剤入りの目薬を使うと、レンズに防腐剤が吸着してしまい、長時間、防腐剤が角膜に触れている状態が続きます。これは洗浄液では落ちず、毎日となると角膜上皮障害を引き起こします。ワンデイコンタクトレンズの場合は吸着してもすぐに捨ててしまうので大きな影響はないとされています。職業柄コンタクトレンズを使わないといけない人もいるので、一概に「メガネにしてください」と指導することは難しいです。
効果を長時間持続させるために「ゲル化」する目薬がありますが、防腐剤が長い間角膜に触れていることになるので、角膜上皮障害が起こるリスクが上がります。単純比較はできませんが、緑内障治療薬である通常の「チモプトール点眼液0.5%」の角膜上皮障害の割合は1.92%、ゲル化する「チモプトールXE点眼液0.5%」の場合は4.40%です。
緑内障の場合は目薬を使う期間が長期にわたり、眼圧が下がらないときは複数本の目薬を使うので、それだけ防腐剤に触れる機会が多くなります。緑内障治療薬の「タプロス」には、防腐剤の入っていない「タプロスミニ」があります。タプロスで角膜上皮障害が出た14例について、タプロスミニに変更して2カ月間追跡調査したものがあります。その結果、角膜上皮障害のスコアが有意に改善したそうです。タプロスミニは1本使い切りタイプになるので、その分コストが上がってしまうことと、広い保管場所が必要という欠点があります。それでも治療効果を変えずに防腐剤の影響を抑えることができるのは治療の選択肢として大きいです。
細菌汚染の原因は黄色ブドウ球菌
細菌汚染された目薬で最も多く検出されるのが黄色ブドウ球菌です。この細菌は私たちの手や顔の皮膚に常在している細菌であり、目薬の細菌汚染は人間が原因とされています。目薬を使う前は手を洗うこと、目薬の先端をまつ毛につけないことという基本を徹底することで防ぐことができるのです。そして当たり前すぎて、普段の服薬指導においてもスルーしてしまいます。だからこそ、みなさんにはこうした当たり前のことを確実にやってほしいと思っています。