「魚を食べると頭がよくなる」は本当？DHA・EPA・遠志・帰脾湯の本当の効果

　冗談か本気かわからないのですが、薬局で働いていると「頭がよくなる薬をください」とよく聞かれます。そのたびに「そんなものあったらいいんですけどねえ」と流していますが、「頭がよいとはどういうことか？」と聞かれると、みなさん答えにつまるのではないでしょうか。

情報と知識と頭のよさ

　私たちは生きているだけで何億という多くの情報を受け取っています。それは情報であり、すべてを私たちが認識しているものではありません。そのなかから2000近くの情報を脳が認識します。脳の経験値と照合して初めて、ただの情報が私たちの認識できる情報に変わります。それはリンゴを見てリンゴだと認識するというものです。そのなかから私たちの生活において有用とされることを瞬時に引き出すと、それは知識に変わります。そのリンゴを見て「これは毒リンゴではない。食べてよい」と判断できることが、頭のよさといえるのではないでしょうか。

　富士山が情報として目に入ってきたとして、そもそも「富士山がどういうものか」を知っていないと、それが富士山だと認識できません。「富士山見えるよ」と誰かが言ったところで、「どこどこ？」となることが多々あります。その人の脳の中で富士山がないことになっていると、富士山が情報として目の中に入っているにもかかわらず富士山が見えないのです。富士山がどういう山で、この場所からはこのように見えるという情報があって初めて富士山が見えるのです。そういった情報を脳の中で整理して使える状態にしておくというのが、頭のよさといえるのではないでしょうか。

記憶力に関する市販薬

　情報を整理して使える状態にしておく力を「記憶力」といいます。この記憶力を高めるとされるのが「遠志（おんじ）」配合の市販薬です。「イトヒメハギ」という草の根を乾燥させた生薬で、「この薬を飲めばよく智を増し、志を強くする」といわれています。漢方処方では、加味帰脾湯（かみきひとう）、加味温胆湯、帰脾湯、人参養栄湯といったものに配合されています。

　2015年12月に「単味生薬のエキス製剤開発に関するガイドライン」が出されて、遠志だけでも物忘れのメカニズムに働きかけて記憶機能を活性化することがわかりました。これにより遠志が配合された市販薬「遠志の恵み」「漢方セラピーオンジ」が登場しました。効能効果は「中年期以降の物忘れの改善」です。

　古くから健忘症に効果があるといわれてきた薬に「帰脾湯」があります。アルツハイマー型認知症は記憶に携わる神経細胞が委縮してしまう病気ですが、神経細胞を帰脾湯で処置しておくと委縮が阻害されることが動物実験でわかっています。また、動物実験ですが、記憶保持試験において、「1：何もしない群」「2：脳を委縮させる薬を使った群」「3：脳を委縮させる薬＋帰脾湯の群」で比較したところ、3は1と同じ程度の結果が出たそうです。

　人間においてはアルツハイマー病患者において3カ月帰脾湯を飲んだところ、見当識・言語・注意における指標が改善したという報告があります。類薬である加味帰脾湯においては、8週間飲んだ結果、長谷川式認知症スケールのスコアが12.8点→15.9点と改善したそうです。帰脾湯も市販されているのですが、類薬である加味帰脾湯のほうがドラッグストアの店頭に並んでいることが多いですので、こちらを買って飲むことができます。

頭がよくなるサプリメント

　これもよく聞かれるのですが「頭がよくなるサプリメントをください」というものです。そもそもサプリメントに薬効はないので、「そんなものはない」というのが正解で、そう伝えると、みなさん途端にがっかりします。「魚を食べると頭がよくなる」といわれるDHAやEPAについては、認知機能に影響がないという研究結果がほとんどですが、健康な高齢者にDHAを1日900mg、24週間飲ませたところ認知機能の改善が認められたというアメリカの研究も存在します。

　DHAに「記憶の精度を高める」という効果が認められたとされる機能性表示食品がありますが、頭がよくなるサプリメントが欲しいという場合はこうした商品を買うのも選択肢の一つかもしれません。

　この効果が認められているイチョウ葉エキス配合の機能性表示食品もあります。イチョウ葉由来フラボノイド配糖体、およびイチョウ葉由来テルペンラクトンは、認知機能の一部である記憶力（言葉や図形などを覚えて思い出す能力）を維持することがわかっています。機能性表示食品であるイチョウ葉エキスも選択肢の一つとなります。ちなみにイチョウ葉をそのまま飲むのは危険です。「ギンコール酸」という毒物が含まれており、5ppm以下になるように精製してつくる必要があるからです。

「頭がよくなる」とされる薬や機能性表示食品が今後も増えることを祈りながら、私は店頭での業務に取り組んでいきます。

（文＝小谷寿美子／薬剤師）