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入居した夫婦がことごとく離婚する物件…離婚しやすい「間取り」は存在するか検証

文=A4studio、協力=船渡亮/一級建築士
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家具などの配置換えで人の動線を改善(図作成=船渡亮氏)

 3月20日、あるTwitterユーザーがつぶやいた以下の「離婚しやすい間取り」についての投稿が一部で話題を呼んでいる。

<離婚で売り出された物件を買って入居したファミリーがまた離婚ってたまに聞くんだけど、LDKの配置的にそこに必然的にそうなるソファーやダイニングの配置的になんとなくお互い普段いる場所がポジショニング的に精神的に居心地が悪い(喧嘩が起きやすい)ケースがないか疑っている>

 果たして「離婚しやすい間取り」など本当にあるのか。そこで今回は、年間1000件の家づくり相談・間取り診断を行う家づくりコンサルタントで一級建築士の船渡亮氏に話を聞き、間取りが夫婦関係に与える影響について解説してもらった。

動線が混雑している間取りは軋轢を生みやすい

「離婚しやすい間取りを証明するようなデータなどはありませんし、私が仕事をしてきた経験や同業者から聞いた話の範囲でも、間取りが直接的な原因になって離婚してしまったケースは聞いたことがないので、あるとは言えません。ただ、“暮らしにくいため夫婦間の揉め事が起こりやすい間取り”ならあると思います。

 いくつか特徴があるので、それぞれご説明していきましょう。ひとつ目は、夫婦間の家事行動が見えなくなっている間取りです。たとえば、キッチンとリビングで空間が分断されてしまっているようなケースが挙げられます。片やキッチンでがんばってご飯をつくっているのに、もう片方はご飯が出来上がるのをリビングで呑気にテレビを観ながら待っている。このように家事の様子が見えづらいのはコミュニケーション不全を誘発しやすいですし、自分だけ家事を強いられているという心理を増大させるようにも思えます。

 洗濯物を収納するシーンでもこうしたコミュニケーション不全が起きやすいでしょう。たとえば、洗濯物を畳んで収納するスペースがリビングから見えない構造になっている場合、働いている人の苦労が可視化されづらい。これが襖を開けることでリビングからも様子が見える和室などであれば、そこで洗濯物を畳んでいる様子がリビングにいる人にも見えて、ほかの家族に努力を認識してもらいやすいわけです。

 ふたつ目の特徴は動線に関わるものです。動線とは、人が動いたときの軌跡や方向を指す言葉ですが、これがうまく設計されていない間取りというのは、余計な衝突を生みがちです。たとえば、玄関からスタートして奥の部屋やキッチンに移動したり、2階に上がったりする際に、動線がテレビ前やダイニングテーブルを横切るようになっていると、あまりよくないですね。背後や目の前を何度も行き来されると人はストレスを感じやすいですから。そうやって無意識のイライラが溜まってきたときに、横切る人がふとぶつかってしまったとしたら、『気をつけて歩いて』などの言葉をポロッとこぼしてしまうこともあるでしょう。それがきっかけで口喧嘩などになってしまう可能性も少なくありません。

 逆にいいのは、メイン動線から枝分かれしている間取りです。玄関からキッチン、リビングから2階といったメイン動線をしっかり確保し、そこから洗面所やトイレ、収納などに分岐していきます。メイン動線は他の家族が邪魔にならないことを意識します。また、リビングやダイニングといった家族が集う場所は、みんなでくつろげるように横切る動線を入れないことも大事です」(船渡氏)

夫婦の性生活にも関わってくる間取りの問題

 夫婦生活を悪化させてしまう間取りに関する要因は他にもあるという。

「子供がいる家庭で、片方があまり性行為に積極的ではない場合などは、間取りの影響があるかもしれません。性生活というのは極めてプライベートなものなので、それを営む空間も家の中で一番プライバシーが確保されるべきです。ですが、視線はさえぎることができても音は防ぎにくいもの。とりわけ子供部屋と夫婦の寝室が壁一枚しか隔てられていないような空間では、子供の耳に音が届いてしまいかねないですし、それを懸念して性生活に常にストレスを抱えてしまうようなことも考えられます。ですので、子供部屋と夫婦の寝室が離れている間取りが理想的でしょう。仮に隣り合わせだったとしても、その間にクローゼットなどがあると収納している服で多少消音効果が期待できます。もっとも、家族の活動時間帯をずらすといった対策もあるので、あくまで参考程度にしていただければと思います」(同)

 では、物件探しの際にこうした間取りを選ばないようにするコツはあるのだろうか。

「まずは動線がどうなっているのかを、ライフスタイルを想定して間取り図に直接書き込んでみたり、内見時に実際に歩いてみたりすることです。動線というのは間取り図を見ただけではなかなか想像できないので、こうした予行演習を行うことで、いざ暮らし始めたときのイメージが湧きやすくなるでしょう。

 ただ、大前提のこととして、家族間で納得して暮らせる間取りであるかをしっかりと語り合ってから、契約なり購入なりをすることが最重要だと思います。一人だけが満足するような間取りでは、ここまで語ってきたようなポイントを仮に満たしていたとしても、ほかの家族からすれば揉め事が起こりやすい間取りになり得ますからね」(同)

 では、今住んでいる家が夫婦間の揉め事が起こりやすい間取りだと気づいてしまったときは、どうすればいいのだろう。

「問題を認識できたというのはいいことだと思います。試しに家具配置や収納計画を替えてみてもいいですね。また夫婦で問題意識を共有することも大事です。お互いの不満やストレス、苦労を理解してもらうだけでも、関係改善につながります。その上で、整理収納アドバイザーや建築家といった専門家に相談してもいいですね。

 どうしても今の住まいでは問題解決できないという場合は、引っ越すのも手です。夫婦がお互いの関係改善、継続のためにお金と時間がかる面倒な“引っ越し”を選択するわけです。引っ越しは夫婦の絆が強くないとできないことだと思いますので、離婚という危機は乗り越えるきっかけになるのではないでしょうか。

 同じ間取り、条件の家でも離婚する夫婦、幸せな夫婦がいます。間取りが暮らしにくい事で夫婦の揉め事が増えることはあり得ますが、それは1つの要因にすぎません。まずはパートナーに向き合うことから始めてはいかがでしょうか」(同)

(文=A4studio、協力=船渡亮/一級建築士)

船渡亮/一級建築士

船渡亮/一級建築士

1971年、神奈川県生まれ。家づくりコンサルタント、一級建築士、省エネ診断士。法政大学建築学科卒業。複数の住宅会社で設計士として活動後、施主のための家づくりコンサルティング会社を設立。家づくりは「理想の暮らしを実現するための手段」という信念の元、年間1,000件の家づくり相談・間取り診断を行う。1万人が学ぶメルマガやブログ、YouTubeチャンネル、動画講座も運営。書籍や雑誌等の監修・執筆や電子書籍出版など、間取りや家づくりの情報発信を積極的に行っている。
かえるけんちく相談所

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