インフル&花粉対策…空間除菌商品は効果なし?誇大広告横行、人体や衣服を傷める危険
措置命令というのは、消費者庁がメーカーに対して「この商品は誇大広告だから、改善しなさい」と注意するだけだ。法的には「命令確定後、その指示に従わない場合、事業者の代表者等は2年以下の懲役又は300万円以下の罰金、また、当該事業者は3億円以下の罰金」となっている。2年の懲役や3億円の罰金と聞くと厳しい処分にも思えるが、あくまで命令に従わなかった場合のことだ。
役所の命令に従ってさえいれば、お咎めはない。売り逃げが十分に可能となる状況をつくっている。特に悪質なメーカーは、次々と会社を立ち上げて新会社でインチキ商品をつくり、役所から注意を受けると会社を閉じるということを繰り返している。
空間除菌商品の市場規模は数十億円にまで膨らんでおり、相当数の人が効果のない商品を買わされたわけだが、誰もお咎めを受けない。
●空間除菌商品の時代背景
この空間除菌商品、もともとは大幸薬品などのごく限られたメーカーが、それなりに大規模な効果実験を行い(いくつか論文も存在する)、販売していただけだった。
しかし2009年に新型インフルエンザ騒動が起こり、インフルエンザを無効化できる商品が薬局に売られていると話題になり、大幸薬品のクレベリンが爆発的に売れた。追随するように、それまで聞いたこともないようなメーカーがジェネリック商品を雨後の竹の子のように販売し始めた。
その中には、除菌スプレーと称して中身はごく薄い次亜塩素酸ナトリウム水溶液(塩素系漂白剤を100〜300倍程度に水で薄めただけのもの)や、次亜塩素酸カルシウム(さらし粉と呼ばれる、プールの消毒や排水溝のぬめり取りに使われる極めて安価な薬剤)のタブレットを入れただけの商品を数百円から千円以上の金額で売る業者も少なからずある。さらに、それらの悪質商品は「類似品にご注意ください」などとパッケージに注意書きを添えて、自社製品が元祖で正当であるといわんばかりにアピールしている。
13年の2月25日に、首から下げるだけの草分け的商品、ウイルスプロテクター(ダイトクコーポレーション)の成分が、ただの次亜塩素酸カルシウムであり、汗や雨などがかかると中身が溶け出し、高濃度の水溶液によってひどい薬品ただれを起こすということで回収する騒ぎになったことを覚えている人もいるだろう。
しかしそれ以降も、次亜塩素酸カルシウムの代わりに亜塩素酸ナトリウムを主剤とした商品が性懲りもなく売られ続けている。
亜塩素酸ナトリウムは二酸化塩素を発生させるのに都合のよい薬品で、単体でも空気と反応して二酸化塩素を生成する。雨などでびしょ濡れにならない限りは、ゆっくりと二酸化塩素が放出されるようにポリマーやゼオライトに吸着させた商品から、ただ薬剤を溶剤に入れてプレスで固めただけの乱暴な商品まである。いずれもネームプレートのようなケースの中に小さいタブレットが1つ入っているだけの安っぽい商品でありながら、数百円以上の値段で売られ、その利益率の高さから参入企業が多く出たのは、ある意味、必然といえる。
このたびの措置命令で、ひとまず空間除菌商品のフィーバーは終わりを見せるだろうか。
●ニュースの裏側
今回、ニュースでは、首から下げる亜塩素酸ナトリウム錠剤が入った空間除菌商品とは別に、大幸薬品のクレベリンの一部の商品も措置命令対象になっている。
大きな会社は批判のやり玉に挙げられやすいため、クレベリン自体がほかの商品と同様に「効果がない」として各所で叩かれているが、同社は首から下げるタイプの空間除菌商品は出しておらず、いうなればインチキ商品の巻き添えを食った印象がある。
クレベリンは、それなりに大規模な感染予防効果を実証する実験も行っており、クレベリンスプレー(高濃度二酸化塩素水)は、汚物の消毒などに病院でも使われており、ほかのインチキ商品とは趣を異にすると考えられる。
ただし、論文を見る限り、空間除菌の効力について、それを実証するための根拠としては弱く、大幸薬品も資料を消費者庁に提出し抗議したものの、「合理的な根拠を示すには値しない」と断じられている。
多くのインチキメーカーが、そそくさと商品撤去(ウェブサイトも軒並み閉鎖)するのに対して、大幸薬品は一部表現を変更するにとどめ、今後も販売を継続する構えを見せている。
そういう意味では、据え置き式のクレベリンゲルがウイルス除去に効果があるのかどうかについては、最終的な結論はまだ出ていないといえる。根拠がないわけでもないが、実証も難しいという状況で、大幸薬品は消費者庁とどのような折り合いを付けるだろうか。
(文=へるどくたークラレ/サイエンスライター)