これだけ医学が発達し、平均寿命も右肩上がりで伸びているのに、腰痛を抱える人は一向に減らない。近年では、「ヘルニアが腰の痛みの原因とは限らない」と、今までの治療に疑問を投げかける医療関係者も増えている。ちなみに、ヘルニアというのは、椎間板が変形により突出することで神経に触れて痛みが出るため、突出した部分を手術で除去すれば痛みがなくなるといわれているが、情報番組『ためしてガッテン』(NHK総合)が調べたところ、そうとは限らないようだ。「調査した人のなかで、腰に痛みがない人の80%に椎間板ヘルニアが見つかっている」「椎間板ヘルニアの症状によっては、手術が必要な場合もあるが、実際に手術をしなければならない人は、ほんの数%である」という。
定説とされてきた腰痛とヘルニアの因果関係に、疑問を呈する議論が起きているのだ。とはいえ、腰痛に悩む人の多くは、そんな侃侃諤諤の討論の中身に興味はないのではないか。「どうすれば腰痛が治るのか?」。知りたいのは、これだけだろう。
『足指をまげるだけで腰痛は治る!』(著:石井紘人、監修:夏嶋隆/刊:ぴあ)では、ヘルニア議論の是々非々ではなく、自宅でもできる腰痛改善法が掲載されている。
実際に、腰痛が原因でサッカー・FIFAワールドカップ2006ドイツ大会への出場を断念したプロサッカー選手の久保竜彦氏(広島県社会人サッカーリーグ1部・廿日市FC)も、夏嶋氏が提唱する「足指トレーニング」で腰痛を改善し、今も現役でプレーを続けているというから驚きだ。
引退を覚悟した久保氏が復活できたワケ
久保氏と夏嶋氏の出会いは、ドイツ大会前。北は山形、南は沖縄までを飛び回り、腰痛治療を続けていた久保氏だが、痛みが消えることはなかった。そこで、とある有名トレーナーに夏嶋氏を紹介され、静岡・御殿場まで足を運んだ。
元サッカー日本代表・中山雅史氏や服部年宏氏の引退会見でも名前が挙がったように、夏嶋氏は“知る人ぞ知る”トレーナーである。久保氏は、応急処置を受け、2006年中にはピッチに立てるようになった。その時、夏嶋氏は「タツ、お前は癖に問題があるから、足指の強化から始めないと、ぶり返すし膝も痛くなるぞ」と指摘する。しかし、当の久保氏は「もう腰も痛くないし、膝なんか全然痛くない」と言って、聞く耳を持たなかった。
「ワールドカップが終わった頃、腰の調子がほぼ戻った。夏嶋先生に診てもらって、調子が良くなった。それで先生の所にもあまり行かなくなって07年、横浜F・マリノスから横浜FCへ移籍した。4月、5月と試合に出て、今度は膝に痛みが出た。6月くらいからは膝がいうこときかなくなって、変な痛みがずっとつきまとうようになった。夏から秋にかけて、頭もおかしくなってきました。いらいらして、試合にも出られなくなり、周りからいろんなことを言われるようになったが、酒には逃げないと心に決めて我慢した。その時はまだ契約があったので、最後まで酒を飲まずに我慢しようとがんばっていた。それでまたいらいら、家族や嫁に当たり散らしたりして……ああ、これおかしくなるなと思った」(久保氏)
久保氏は「きっと俺は障がい者になるんだ。これから先、どうしよう」と日常生活の心配をし始めていた。
「もう現役辞めようかなと考えて、12月くらいまでプレーできなかった。その12月の最後に御殿場で横浜FCの合宿があって、グラウンドに歩いていったら、『おい、タツ。どうや?』と先生が声をかけてきてくれた。『もう膝がやばいです。ダメです。辞めようと思います』と話したら、『(腰の次に膝が痛くなるって)言っただろう」って言われた。そして『またリハビリに来い。まだ大丈夫やろ』と誘ってくれたので、横浜FCに相談したところ、トレーナーも強化部もチームから離れることを受け入れて『行っていいよ』と言ってくれたので、3カ月先生の所に泊まり込んでリハビリした。『無理なら引退する』という覚悟で臨んだが、1週間くらいで腰や膝の痛みが消えてきた」(同)
久保氏は、本書にある「足指トレーニング」を合宿形式で行い、腰痛と膝痛を改善した。その後、復帰戦となったゼロックススーパーカップにサンフレッチェ広島の選手として出場し、鹿島アントラーズ相手にゴールを決め、リーグ戦の湘南ベルマーレ戦では、全盛期を彷彿とさせるスーパーゴールも決めた。その後は、日本プロサッカーリーグ1部(J1)や日本代表での大活躍とはいかなかったが、年に数試合しか出られなかった選手が、今でも現役でプレーをしているのは、奇跡という表現がぴったりである。だが、腰痛が治ったのは決して奇跡ではない。それは、『足指をまげるだけで腰痛は治る!』を読めば、理解できると思う。
(文=Japan.Journal編集部)