街中や電車の中などで、マスクをした人を多く見かけます。特に電車の中では、3~4人に1人くらいの割合でマスクをしている感覚です。風邪やインフルエンザがはやっている季節なので、それらの原因となるウイルスが鼻や口から入るのを防ごうとしているのでしょう。また、そろそろスギ花粉が飛散する季節となるので、花粉の侵入を防ごうという意図の人もいるのだと思います。
最近では、薬局やドラッグストアばかりでなく、コンビニエンスストアでもさまざまな種類のマスクが売られているので、購入しやすいという点も、マスクをする人が多くなった理由でしょう。マスクの値段はさまざまですが、3枚から7枚入りで300~450円(税込)くらいのものが一般的です。
しかし、そこで払ったお金が、実はほぼ無駄になってしまっているかもしれません。なぜなら、マスクによる予防効果はほとんどないからです。
現在、主に売られているマスクは「プリーツ型」と「立体型」とに分かれます。「プリーツ型」は、長方形の不織布にゴムひもがついたタイプで、街中や電車で見かけるのはほとんどがこのタイプです。一方、「立体型」は鼻と口をすっぽり覆うタイプで、ユニ・チャームの「超立体マスク」に代表されます。
これらの製品には、「細菌・ウイルスを含む飛沫(3マイクロメートル以上)、花粉(30マイクロメートル以上)99%カットフィルタ採用」「99%ウイルス飛沫をカットフィルタ」などと表示されています(マイクロは100万分の1)。こうした表示を信じて購入している人も多いでしょうし、これは事実と考えられます。もし嘘ということになれば、景品表示法の優良誤認(実際のものよりも著しく優良であると示すこと)に当たり、処罰の対象になるからです。
しかし、実はマスクには思いもよらぬ落とし穴がありました。それは、顔とマスクとの間にすき間ができていて、そこからウイルスや花粉などが侵入してきてしまうということです。このことを明らかにしたのは、独立行政法人国民生活センターです。
いずれのタイプも、外からの空気が簡単に侵入
国民生活センターでは、市販の「プリーツ型」9銘柄と「立体型」6銘柄について、マスク本体の捕集効率や装着した際の漏れ率などをテスト。男女10人が、実際にそれぞれのマスクを装着し、その際の空気の漏れ率を測定しました。漏れ率は、マスクの内側(マスクと顔の間)と外側を浮遊する0.3マイクロメートル以上の微粒子を測定することで算出しています。たとえば、マスクと顔のすき間からの漏れにより、マスクの内側に侵入した微粒子の濃度が外側の微粒子の濃度の半分である場合、漏れ率は50%となります。
その結果、「プリーツ型」の場合は7銘柄が80%以上の漏れ率で、そのうち3銘柄は90%を超えていました。残りの2銘柄も65%を超える漏れ率です。プリーツ型は、どうしても頬とマスクの間に大きなすき間ができてしまいます。そのため、そこからマスクの外側の空気が容易に内側に入ってきてしまうのです。
つまり、ウイルスや細菌、花粉などがどんどん鼻や口に入ってくるということになります。これでは、いくらマスク自体がウイルス飛沫や花粉を遮断できても、予防効果はほとんど期待できません。
一方、「立体型」はどうでしょうか。6銘柄のうち4銘柄が60%を超える漏れ率で、そのうち3銘柄は80%を超えていました。そして、残り2銘柄はそれぞれ約60%、約40%の漏れ率という結果でした。テストを行った半数以上の人が、「すき間は鼻のあたりに感じられた」といいます。
「立体型」の漏れ率は「プリーツ型」に比べるとやや低くなっていますが、それでも60%を超えており、ウイルスや細菌、花粉の侵入は容易と言わざるを得ません。したがって、やはり予防効果はほとんどないということになります。
結局「プリーツ型」「立体型」のどちらも、風邪やインフルエンザのウイルス、あるいは花粉の侵入を防ぐことはできないのです。市販のマスクはいずれも使い捨てなので、毎日交換しているとけっこうな金額になります。しかし、そのお金のほとんどは無駄になってしまっているのです。
なお、風邪をひいている人の場合は、マスクをすることによって、くしゃみやせきに伴う飛沫が周辺に拡散することをある程度防ぐことができるでしょう。その点では、それなりの意味や効果はあると考えられます。しかし、外からのウイルスや花粉などの侵入を防ぐことは、ほとんどできないという点は覚えておいたほうがいいでしょう。
(文=渡辺雄二/科学ジャーナリスト)