本当に大切な人は「家族」と「仕事相手」だけ
–では、中川さんはどのように付き合う人を選んでいるのでしょうか?
中川 人間関係を築く上での基本は、まず深い関係になる人間を極力減らして、ストレスを回避することだと思っています。例えば、私は本書の中でも登場するY嬢と2人で会社を経営していますが、ほかに正社員を雇用する気はありません。正社員を雇ってしまうと、その人の人生を負わないといけなくなるからです。そんなに深い関係になってまで、私は他人の人生の責任を負いたくありません。だから、基本的に仕事は外部のフリーランスに発注するというスタイルを貫いています。私にとって大切な人間は「家族」と「仕事相手」だけです。普通の社会人の場合、それ以外の付き合いをする時間を作るのは難しいでしょう。みんな、自然と優先順位をつけているのだと思います。学生時代の友人との飲み会でも「残業が終わらないから遅れる」「明日のプレゼンの準備が大変だから今日はドタキャンさせてくれ」「子供に熱が出たから今日は行けない」などということはよくありますが、「家族」「仕事」以外の人間関係はもはやオプションのようなもので、優先順位が低くなってしまうのです。
–基本的に、家族と仕事相手以外のつながりは必要ない、ということですね。
中川 必要ありません。余計な人間関係で悩まされないためにも、ほかの縁はすっぱり切るのです。縁を切るというと、一見ハードルが高そうに思えますが、実は知らないうちに自然と縁が切れていくケースも少なくありません。例えば、地方出身で東京の大学に進学した人が、そのまま東京で就職したとしましょう。たまに帰省して地元の同窓会に出席すると、いまだに学生時代に足が速くてモテていた奴が中心になっていたり、田舎と都会では仕事の内容や空気感も違うので、なかなか話が合いません。そうなると、もうそこに自分の居場所はないと感じて、それから同窓会には出席しなくなるでしょう。生活スタイルや環境が変わることで、自然に過去の縁は切れていくのです。もちろん、その土地にずっと残っている場合は違うかもしれません。
–過去の縁にすがるのではなく、今、自分にとって誰が大事で、誰とつき合いたいか、を考える必要があるということですね。
中川 そうです。そして、今大切だと思う人以外との関係を失うことを、怖がらない強さが必要です。本書の中にも書きましたが、私は以前に婚約者を亡くした経験があるので、「本当に大切な人以外の人間関係は大事ではない」と、腹をくくっています。今まで自分がもらった名刺を見返しても、まだつき合いのある人や、いざという時に頼れる人などはほんの一握りでしょう。人間関係なんて、そんなものなのだと思います。
–ありがとうございました。
他人の目を気にしがちな日本人にとって、「縁を切ること」「人とのつながりを自ら断つこと」は、そう簡単ではないかもしれない。しかし、無理をしてつなぎ続けた縁がストレスの元凶になってしまったら、それはただのやっかいなつながりでしかないだろう。今、自分が本当に大切にすべき人は誰なのか、今一度見つめなおすことが必要なのかもしれない。
(構成=田代くるみ/ライター)
『縁の切り方』 「つながるバカ」につける薬とはなにか? 「自分にとって不要な人間関係ならば、容赦なく縁を切るべし! 」──そう断言するネットニュース界の第一人者が、自らの「諦観」の根源を初めてさらけ出した問題作。ネットでもリアルでも、「つながる」ことは本当に幸せなのか? ネット上の豊富な事件簿や自身の壮絶な体験を赤裸々に振り返りつつ、本当に重要な人間関係とはなにかをあらためて問う。SNSを中心にはびこる「絆至上主義」に一石を投じる渾身の社会批評。