しかし、最近になって、そんな空気に変化が訪れている。昨年、蛭子能収氏の『ひとりぼっちを笑うな』(KADOKAWA/角川書店)をはじめ、森博嗣氏の『孤独の価値』(幻冬舎)、中川淳一郎氏の『縁の切り方』(小学館)といった「孤独」をテーマにした書籍が相次いで刊行された。今年1月にも、市村よしなり氏の『こもる力』(KADOKAWA/角川学芸出版)が発売されるなど、「絆」や「つながり」といった言葉を否定するような動きが見られる。
4年前、私たちが連呼していた「絆」とはなんだったのか。なぜ今、あえて人とのつながりを絶つような内容が受け入れられているのか。昨年12月に『縁の切り方』を上梓した中川淳一郎氏に
・絆ブームとはなんだったのか
・正しい縁の切り方
・人間関係を見極めるコツ
などについて聞いた。
ネット上で拡散した「絆ごっこ」
–震災当時、多くの人が「絆」という言葉を口にしていましたが、中川さんはその様子をどのようにご覧になっていましたか?
中川淳一郎氏(以下、中川) 確かに、あの時はネット、特にTwitter上に数えきれないほどの「感動ツイート」が出回っていましたが、はっきりいって被災地以外から発信された、震災をダシにしてヒロイズムを満たす「絆ごっこ」だったと思います。ネット上で「絆が大事だ」と叫んだところで、被災地以外の多くの人にとって、震災はしょせん他人事だったのです。そういった書き込みをしていた人の中で、実際に被災地に行ってボランティアをした人がどれだけいたでしょうか? 行ったとしても、この4年間、被災地の人と手紙やメールでずっとやりとりを続けている人が何人いるでしょうか? 自分の大事な人が被災したわけではないから、他人事の「絆ごっこ」で満足していたのです。当時は、そういう人がたくさんいたのだと思います。
–確かに、自分の親族や大切な人が被災していたら、安易に「絆」という言葉を使うことすらはばかられるように思います。
中川 結局、人は自分の身近な人しかケアできないのです。東北の、名も知らぬ人より、身近な人のほうがよほど大事でしょう。しかし、それを正直に言ってしまうと、ひとでなし扱いされてしまいます。それでも、私がこの『縁の切り方』を書いたのは、「人が生きていく上で、大事にできる人は数人しかいない」というふうに、人づき合いの根本を見直すべきだと思ったからです。最近になって、孤独をテーマに扱う本が増えているのも、「自分にとって必要ではない人間関係は無駄だ」という真実に気づき始めたからではないでしょうか。
『縁の切り方』 「つながるバカ」につける薬とはなにか? 「自分にとって不要な人間関係ならば、容赦なく縁を切るべし! 」──そう断言するネットニュース界の第一人者が、自らの「諦観」の根源を初めてさらけ出した問題作。ネットでもリアルでも、「つながる」ことは本当に幸せなのか? ネット上の豊富な事件簿や自身の壮絶な体験を赤裸々に振り返りつつ、本当に重要な人間関係とはなにかをあらためて問う。SNSを中心にはびこる「絆至上主義」に一石を投じる渾身の社会批評。