これはゲーム機のビジネスに似ている。ゲーム機本体を普及させるためには、魅力的なゲームを多数出す必要がある。人気のゲームタイトルを獲得するために、制作費の補助を出すことが行われている。
しかしUstreamはそうではなかった。高性能なゲーム機は出したが、ゲームメーカーには補助をせず、逆にお金を取るスキームだったのである。
もちろんUstream Asiaでもコンテンツの重要性は認識していて、大ヒットとなったアニメ作品「TIGER & BUNNY(タイガー&バニー) 」を無料配信したり、ももいろクローバーZの配信を支援するなどの取り組みは行った。しかし、いずれもUstream自体が手がけたコンテンツではなく、あくまでプラットフォームという立場は変えなかった。
またUstreamはスタート当初はすべて無料だったが、段階的に制限をつけて課金させるモデルに移行していった。録画の無制限保存をやめて1カ月保存にすることで配信者側の有料チャンネル加入をうながし、配信途中に動画広告を流すことで広告を出さないオプションに契約させようする。Ustreamでの囲い込みがうまくいっていれば、この戦略でも成功しただろう。しかし囲い込みに失敗し、ブランド力が落ちたことで、段階的課金はうまく進まなかった。
日本での赤字でアメリカ側が見放したのか
Ustream凋落の3つ目の理由は、「ブランド力の低下」だ。ネットライブ動画の代名詞となったUstreamは、先進的なメディアとして大きなブランド力があった。筆者は仲間と週に一回、UstreamでUstreamの情報をまとめる「UstToday」という番組を制作しているが、ここでステッカープレゼントを行ったことがある。単なるステッカーなのだが、プレゼント応募のツイートが殺到し、それだけで視聴者が大きく増えることもあったほどである。その人気の高さ、ブランド力の強さを実感した瞬間だった。
しかし、ブランド力は12年頃から徐々に落ちてきた。ライバルのニコ動の人気が高まり、一般ユーザーだけでなく企業も使い始めたこと。スマートフォンでは、ツイキャスことTwitCastingのユーザーが爆発的に伸びたこと。最大の動画メディア・YouTubeが、YouTube Liveを始めたことなどにより、ネット生放送は目新しいものではなくなった。
またUstreamのシステム改善が遅れたことも、ブランド力を低下させた。当初のUstreamは、孫社長に「専用のスタジオが欲しい」とTweetしただけで、Ustream Studioが生まれるなど、即座に柔軟に対応することが魅力に思えた。しかし、徐々に硬直化していく。