ゲーム依存患者の「治療」は、いったいどのように行われているのだろうか。10月26日に「ゲーミングの未来を考える会」による研究会が開催され、東京・蒲田のタカハシクリニックで精神保健福祉士としてゲーム依存治療に携わる齋藤広美氏が「ゲーム障害の治療に携わって」という講演を行った。
依存する我が子を心配する親が、つい陥りがちな悪循環とはなんなのか? そして、医療現場ではどうやって改善につなげていくのか?
「ゲームをやめさせる方法」はない
ゲーム依存に限らず、依存当事者は治療を行うことに対し、激しく抵抗する傾向があると齋藤氏。依存対象は、依存当事者にとって「本人の生きづらさ」を救ってくれる存在でもあるからだ。
よって、タカハシクリニックにもゲーム依存当事者ではなく「当事者の親」が子どものゲーム依存をなんとかしてほしいと訪ねてくるケースが多いという。そのため、同院の依存における治療方法では「CRAFT」の理論を取り入れた独自プログラムを用意している。
CRAFT(Community Reinforcement and Family Training)とは、当事者の家族とともに、当事者の治療にどうつなげていくかを考えていくアプローチで、依存症だけでなく、ひきこもり当事者の家族に対してもよく用いられている。
同院において、当事者の家族から寄せられる相談内容は似ている。「休み明けから学校に行かない」「成績が下がっている」「予備校を休んでいる」「スマホやゲーム機を取り上げたら暴言を吐く」――そして、多くの保護者が「ゲームやスマホをやめさせるにはどうしたらいいか教えてほしい」と尋ねるという。
しかし、齋藤氏は「ゲームを(依存対象を)やめさせる方法はない」と話す。変えなくてはならないのは「(家族から見て困った)子どものゲームの利用状況」ではなく、「ゲームをやめさせようと無理強いする親と、子の関係性」なのだ。
依存当事者の親はゲームに耽溺する子どもが気がかりで、子どものことばかりを考えている。子どもは「ゲームのことばかり」考えているが、親も親で「子どものことばかり」考えているのだ。
当然、親自身も深く苦しんでいる。ゲームに耽溺し、親に暴言を吐く子どもの姿に、自分の育て方が悪かったのかと自身を責めたり、また、他人から責められるのを恐れ、誰にも相談できないと悩む親も多いという。
親子間の「扉」が閉ざされる悪循環
多くの場合、依存当事者の保護者が医療機関を訪ねる段階で親子関係はすでに悪化しており、親子間の「扉」は閉じていることが多いという。この「扉」を閉ざさないよう気をつけるだけで状況は改善する、と齋藤氏は話す。家族がそのことに気づくだけで、家庭内の雰囲気は変わってくるのだ。
齋藤氏は、依存当事者の保護者によく「子どもの望ましい行動と望ましくない行動を紙に書いてきてください」という宿題を出すそうだが、「望ましい行動」を挙げる親は少なく、「望ましくない行動」ばかりが多く書かれているという。
このように、親が子どものことばかり気がかりで切羽詰まった精神状態でいれば、子どもに対し「将来をちゃんと考えろ、毎日ゲームばかりするな」と小言や叱咤が出てしまいがちになるし、そうなれば子ども側も「文句ばかり、うるさい」と反発し、親子間の扉はさらに閉ざされてしまう。
この悪循環を断ち切るため、依存当事者の家族に必要なこととして、齋藤氏は以下の3点を挙げる。
(1)ゲーム障害についての知識を深める
(2)当事者とのかかわり方の幅を広げていく
(3)家族自身の負担を軽減していく
そして、今回の講演では「(2)当事者とのかかわり方の幅を広げていく」について触れられていた。
依存当事者も四六時中、荒れているわけではない。健全な状態(「迷惑かけてごめん」「どうしたらいいかわからない」)と病的な状態(「好きなことをやって何が悪い」「お前の育て方が悪いからこうなったんだ」)を行き来しており、そのときの状態に応じた言葉が出てくるという。
悪い言葉は「本人」から出てくる言葉ではなく、「病気」からくる言葉であると齋藤氏は話す。まず親側が依存当事者の「病気の言葉」に対し言い返すことをやめるだけで、コミュニケーションが生まれるきっかけができるという。また、当事者が「病気の言葉」を言うときは引き金があり、それを察知し、避けることで「病気の言葉」が減っていく。
「依存症の問題は深刻で、ご家族は苦しんでいます。家族が冷静に状況を見られるように支援していくことが欠かせません。その変化が、必ず大きな変化につながっていきます」と齋藤氏は話した。
「人間関係の基本」を取り戻していけるか
私自身は、より大勢を対象にした「依存予防、依存対策」の啓蒙の講演を学校などで行う機会があるが、齋藤氏の話を聞き、症状の重さに応じたさまざまな対策が必要なのだとあらためて思う。
そして、齋藤氏の話は何も「重篤なゲーム依存の子を持つ親」に限らず、今、日本で当たり前のようにいる「子のゲームのやりすぎに手を焼いている親」にもヒントになるのではないだろうか。
依存症かどうか、あるいは子どもか大人かにかかわらず、感情には好不調の波があって当然であり、子どもの頃に「宿題しろ」「部屋を片付けろ」などの親の小言にイラッとしたことが一度もない、という人はほとんどいないのではないだろうか。
「ほめられたらうれしいし、頭ごなしに叱られれば腹が立つ」という、人間関係の基本ではあるが、案外大勢ができていないこと、そして家族間ではさらに難しいことを、いかに生活の中で取り戻していけるかなのだろう。
しかし、親の苦労や心痛は本当に偲ばれる。そもそも、「ゲームに依存し、精神が荒廃してしまう人」と「問題なくゲームを楽しめている人」の違いはなんなのだろうか。後編では、ゲーミングの未来を考える会の別の講演から、それらの問題について考えていきたい。
(文=石徹白未亜/ライター)
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