Android立役者退任のグーグル、PC+モバイル+クラウド融合OSという野望
現在のソーシャル × モバイル化へと続くWeb2.0時代の到来をいち早く提言、IT業界のみならず、多くのビジネスパーソンの支持を集めているシリアルアントレプレナー・小川浩氏。『ソーシャルメディアマーケティング』『ネットベンチャーで生きていく君へ』などの著書もある“ヴィジョナリー”小川氏が、IT、ベンチャー、そしてビジネスの“Real”をお届けする。
GoogleのモバイルOSであるAndroidは、いまやスマートフォン部門でもタブレット部門でもAppleのiOSを追い抜き、世界最大のOSシェアを誇っている。アンディ・ルービンは、そのAndroidの開発を中心として、Googleの技術部門担当副社長を務めていたわけだが、最近その職を解かれた、という報道が世界中で話題になっている。
アンディはもともとAppleに勤務したことがあるエンジニアで、Danger社というスマートフォン開発ベンチャー(Sidekickというスマートフォンで有名)を興したことでも知られている。その後、Danger社がMicrosoftに買収された際に創業したモバイルOS開発ベンチャーのAndroid社が、Googleに買収されて現在に至っている。
「無償で世界中の携帯電話メーカーに提供するモバイルOS」というコンセプトで再開発されたAndroidが、名実ともに世界で最も普及したモバイルOSとなったのは、ひとえにアンディの情熱の賜物だ。
前述のごとく、アンディは2003年10月、Android社を設立して製品を出す前に、Googleによって買収されて経営幹部に抜擢されている。Android発表当時は、スマートフォンのOSはWindowsやRIM(BlackBerry)全盛であり、多くの携帯電話メーカーから冷ややかな対応を受けていたが、iTunes Storeを世界中の音楽レーベルと根気よく交渉して認めさせてきたスティーブ・ジョブズと同じく、アンディは粘り強い個人技によって偉大な成功を引き寄せるに至った。
しかし、最近彼は韓国サムスンの、Android搭載スマートフォン・GALAXYによる一極集中的な大成功によって、逆に無償OSとしてのAndroidのポジションが脅かされるのではないかという懸念を表明していた。また、「現在のスマートフォンは不細工でありGoogle Glassが未来の有望デバイスである」とするラリー・ペイジCEOの発言など、Googleの内部で何か起きているかのような兆候がいくつか見られていた。
そして今回の発表である。
● Chrome OSとAndroidの摩擦
もともと、アンディ・ルービンがGoogleをいつか追われる、もしくは自分から出て行く可能性は常に存在していた。それはChrome OSとAndroidの間の摩擦だ。
Googleは、PCもモバイルもひとつのOS、かつクラウドベースのOS(すなわちChrome OS)に統合していきたいと考えている。そのGoogleからすると、Androidの驚異的な成長はうれしい半面、かなり複雑であったはずだ。Appleはスティーブ・ジョブズの置き土産のひとつであるiCloudによって、OS統合がGoogleに先んじて進みつつあるうえ、インストール型のOS(Mac OS XもiOSも、Androidもそうである)をベースに、データ連携をクラウドを介して行うスタイルの擬似的なクラウドコンピューティングを展開しつつある。しかし、その進化の方向は、Googleが望むほんとうのクラウドコンピューティングとは違う。
Googleとしては、Chrome OSを早くPCからモバイルに展開したい。しかし、PC側でもなかなか普及に加速がついていないし、モバイルではAndroidが強すぎて市場からChrome待望論は出てきていない。GoogleにとってはAndroidの普及はiOS対抗上でも良いことであるが、Chrome OSへのシフトを遅らせる要因になっていた。
つまり、アンディ・ルービンの存在はGoogleとしては非常に価値の高いものであると同時に、自分たちの長期的な戦略に対する深刻な阻害要因であったのだ。
今回、アンディとGoogle経営陣のどちらが引き金を引いたのかはわからないが、結局アンディはAndroidの統括責任者の座を降りた。今後Androidは徐々にChromeに統合されていくに違いない。GoogleとしてはiOS=Appleの一人勝ちを防ぐという当初の目的を達成し、今後は自分たちの理想郷に向けて再び純粋な作戦行動を起こすだろう。
アンディはというと、Androidの普及にこそ成功したが、徐々に自分が考えるモバイルOSとは異なる進化を続けていくAndroidに見切りをつけ、再び新しい起業を考え始めているのかもしれない。もしくは、再びAppleに戻り、iOSの責任者になる、という道もまた、ウルトラEクラスの確率ではあるが、ないとはいえないかもしれない。
(文=小川浩/シリアルアントレプレナー)