格安スマートフォン(スマホ)が普及するなか、NTTドコモが新たなかたちの割引を発表した。特定の端末を買うことで、毎月1500円をずっと割引く「docomo with(ドコモウィズ)」だ。今までドコモは根本的な料金値下げをしてこなかったが、格安スマホへの顧客流出は続いており、ついに禁断の値下げ競争に突入したといえそうだ。
対象2機種を買うと毎月1500円安くなる新たな料金プラン
5月24日のドコモ発表会で、新料金プラン「docomo with」が登場した。特定の端末を買うと、その後の料金をずっと1500円割り引く、今までにないスタイルの料金プランだ。
「特定の端末だけ」と聞くと、限定されたキャンペーンのようにみえるが、そうではない。「まったく新しい料金プラン(ドコモ広報)」といえるもので、通話料金やパケット料金を個別に下げるのではなく、トータル料金を縛り期間なしで割り引くものだ。概要だけでは「2機種だけの割引」に見えるが、実際にはドコモの料金を根本的に下げるものだと筆者は考えている。
まずはdocomo withのアウトラインを見て行こう。
新料金プラン「docomo with」のアウトライン(6/1開始 詳細はドコモ公式サイト)
・富士通製の「arrows Be F-05J(2万円台半ば目安)」、サムスン製の「Galaxy Feel SC-04J(3万円台半ば目安)」の2機種をドコモで購入することが条件
・料金総額から毎月1500円割引
・割引は永続的に続く(下記の注意点を除く)
・契約後は、手元のスマホや、中古スマホ、SIMフリーのスマホも使うことができ、追加料金はかからない(「指定外デバイス使用料」はかからない:5月24日、ドコモ説明員による)
・機種変更、新規契約どちらでも可能(同、ドコモ広報による)
docomo withの注意点
・2年縛りのプラン(カケホーダイ、カケホーダイライト、シンプルプラン)への加入が必要。データプラン(スマホ/タブ)は対象外
・今まで端末購入後2年あった「月々サポート(端末購入サポート)」はなくなる。端末は定価で買うかたち
・次の機種でドコモで月々サポート対象のスマホを購入した場合は、1500円割引はなくなる
端的にいうと「対象機種に変えれば毎月1500円安くなる」プランだ。ドコモに払う毎月の料金で比較したのが上の図だ。従来までの最安値は月額5500円だったが、これが毎月4000円になる。ドコモを15年以上使っているユーザーであれば「ずっとドコモ割」が有効なので月額3400円になる。ドコモで月額3400円なら、格安スマホに乗り換えずに使い続ける人が多いだろう。
詳しくは後で述べるが、ドコモから格安スマホへの流出を防ぐユーザー囲い込み策になる。
ずっと続く割引=SIMフリースマホを自分で買っても続く
docomo withでは1500円割引の代わりに、従来までの「月々サポート」はなくなる。月々サポートとは、端末購入後2年間、端末代金の補助として料金から割り引かれるものだった。docomo withでは月々サポートがなく、端末を定価で買う代わりに、毎月1500円の割引が提供されると考えていい。
ただし大きな違いがある。月々サポートは2年のローン期間のみの割引だったが、docomo withの割引は「ずっと続く」(吉澤和弘・ドコモ社長)のである。ここが大きなポイントで、一度docomo withに入ってしまえば、安い料金で使い続けることができる。
docomo withでは、自分が利用する機種はなんでもよい。最初だけはdocomo withに加入するために対象のスマホを買わなければならないが、その後は別のスマホも利用できる。
たとえばdocomo with加入後1年たって、機種変更したくなったとしよう。中古のスマホに変えてもいいし、SIMフリーのスマホを自分で買ってもいい。アップルストアでiPhoneを定価で購入しても構わない。もしくは1年後にあるだろうdocomo with対象機種に変えてもいい。そのいずれでも、docomo withの1500円割引は続くのである。
唯一、1500円割引がなくなる場合がある。それは「ドコモで月々サポート付きの機種を買った場合」だ(ドコモ広報による)。この場合はdocomo withの割引はリセットされ、料金の割引はなくなる。
こうなると一度docomo withに入ったユーザーは、1500円割引を受けるために、ドコモではなく自分で端末を買う人が増えそうだ。最新機種ではドコモで購入し従来の月々サポートを受けたほうが実質的に安くなる可能性が高いが、それでも「料金が1500円高くなってしまう」と聞くと躊躇しそうだ。docomo withに入ったユーザーは、ずっと同じプランを使い続ける人が多いだろうと予測できる。
これはドコモの料金の実質的な値下げといえる。docomo withに入ったユーザーの支払額が、今までの最安値5500円から4000円に下がるわけで、ドコモとしては減収の要因になり得るだろう。
au・ソフトバンクはサブブランド展開だったが、ドコモは本体で格安スマホ対抗へ
今まで大手3社の料金には、端末代金の補助やインセンティブに当たるものが含まれていたため、端末代金と通信料金の区別がつかず不透明だった。
しかしdocomo withは「端末は定価で買ってください、月々サポートはありませんが代わりに毎月1500円安くします」という方針であり、端末代金と通信料金を分離したとも考えられる。複雑だったものが、わかりやすくなったといえるだろう。
ただし対象になるのは今のところ2機種だけであり、従来のユーザーが値下げになるわけではない。「従来ユーザーは不利ではないか?」という質問に対し、ドコモの吉澤社長は「docomo withは同じ機種をずっと使い続けるお客様の料金を下げるプラン。docomo withに入っていただければ、その後はずっと安くなるのでご理解いただきたい」と述べた。
対象の2機種は、最新のハイスペックモデルではなく、中堅クラスのモデルが選ばれている。対象機種についてドコモ社長は「加入状況などを見て、今後、別の機種でも検討していきたい」と述べ、対象機種を今後増やすことを示唆している。
今回のdocomo withは、格安スマホへの対抗策と考えられるが、価格的にはまだ不利だ。最安値でも4000円であり、格安スマホ各社の一般的な価格より2000円以上高い計算になる。また、元となる基本料金(カケホーダイなど)に2年縛りがあり、途中解約だと解約料がかかってしまうのも難点だ。
しかし既存のドコモユーザーにとっては、安心できるドコモを最安値4000円で使えることを思えば、格安スマホへの移行をやめて使い続ける人が多くなるだろう。格安スマホへの流出を阻止する、ユーザーの囲い込み策として有効だ。
auとソフトバンクは、格安スマホ対策として、サブブランド展開を行ってきた。auはUQモバイル、ソフトバンクはワイモバイルで、安い料金を提供している。本体での値下げはせずに、サブブランドで格安スマホへ対抗する方法だ。
それに対し、ドコモはドコモ本体で値下げする思い切った施策に出た。サブブランドを持たないゆえの対抗策だろうが、永続的に1500円割り引くとは、筆者は予想していなかった。auとソフトバンクがどう対応するか注目だ。auとソフトバンクが対抗策を出すようなら、新たな料金値下げ競争に入る可能性がある。格安スマホの人気上昇で、大手3社が根本的な料金値下げに踏み切らざるを得ない時代がきている。
(文=三上洋/ITジャーナリスト)