ここ1カ月ほどで突如、爆発的なブームとなっている音声配信SNSのClubhouse(クラブハウス)。ユーザーになるにはClubhouse利用者から“招待”されることが条件となっており、最初はユーザー1人当たり2人分しか招待枠を保持していないため、利用者は限定的だったが、瞬く間に話題に火がついたことで加速度的にユーザーが増えている。
「1月上旬の時点では、新しモノ好きの一般の人々の間でジワジワと広がっていた感じでしたが、YouTubeやTwitterなど既存のSNS上で強い影響力を持っている著名人や、さらには芸能人がこぞって流れ込んできたことも、多くの人を呼び込んだ要因になりました。
一方、興味本位でやってみたものの“イマイチ面白さがわからない”“飽きた”といって離脱するユーザーも少なくなく、room内でタレントが他の参加者から“詰められ”て炎上したり、room内の会話内容がネット上に漏れたりといった現象も出ており、日本でメジャーなSNSとして定着するかどうかは、もう少し様子を見ないとわかりません」(ネット広告会社プロデューサー)
そんなClubhouseをめぐっては、個人情報保護の観点より以下の懸念点も指摘されている。
・ユーザーにはroom内での会話の録音を禁止しているにもかかわらず、運営元は録音をしている。
・ユーザーが第三者を招待する際に、その人物の電話番号をスマートフォンのアドレス帳に登録する必要があり、運営側にその第三者のデータが渡る仕組みになっている。結果として、当人から許諾を得ていない人の情報が運営元に渡る。
・運営元がユーザーの個人情報を活用し、その分析結果をビジネスパートナーなど第三者と共有することがある。
上記については、ユーザー登録時に承諾を求められるガイドラインやプライバシーポリシーに明記されているものの、現時点で日本語版がリリースされておらず英語表記であるため、内容を理解せずに使用している人も多いとされる。
こうした現状を踏まえ、ITジャーナリストの山口健太氏は次のように指摘する。
「Clubhouse内での会話は、スピーカーの同意なしに録音やメモをしてはならないと定められています。ただし、ユーザーからの通報に対応するため、運営者は調査目的で会話を一時的に録音することも規約に明記しています。利用の増加に伴い、個人間トラブルが増えると予想されるなかで、必要な措置といえるでしょう。
一方、懸念の声が上がっているのがアドレス帳の扱いです。Clubhouseの招待機能は、ユーザーの同意に基づいてiPhoneのアドレス帳にアクセスします。このとき、Clubhouseを使っていない人の名前や電話番号についても、Clubhouseが運営する米国のサーバーに収集されてしまうわけです。
Clubhouseが定めるプライバシーポリシーは主に米国での利用を想定しているものの、ユーザーは欧州やアジア、南米へと急速に広がっています。特に欧州では、たとえ米国の会社であっても、欧州でサービスを提供するには欧州の個人情報保護法であるGDPRへの対応が求められます。この点で規約に不備がある可能性が指摘されており、対応を迫られることは必至でしょう。
日本でもユーザー数は急増していますが、アプリや利用規約は英語版のみで、日本語の規約は有志が翻訳している状態です。参加できる年齢は18歳以上となっていますが、万が一未成年が犯罪行為に巻き込まれた場合にどうなるかなど、まだわからないことが多いのが現状です。
音声SNSというジャンルは今後、大きなトレンドになる可能性があるものの、現状のClubhouseは米国を中心とした発展途上のサービスであることを理解した上で楽しむのが良いでしょう」
では、Clubhouseに法律的な問題点はあるのだろうか。山岸純法律事務所の山岸純弁護士は、次のように解説する。
山岸弁護士の解説
この手のアプリの利用規約等は、どこの国の法律が適用されるか、という面倒な問題があるので、ややこしいのですが、以下、日本法にのっとって考えた場合、Clubhouseの手法が問題となるのかどうか、を解説します。
まず、運営元が「録音している」ことについてですが、この「録音」自体は、日本の法律では「個人情報」にはあたらないので(録音内容自体が、氏名、生年月日などの「個人情報」に当たる場合を除く)、利用規約等に「録音するよ、アプリ使用が終わったら消すよ」と書いてあれば問題ないのでしょう。
次に、「ユーザーが“誰か”を招待する際、その“誰か”を電話帳に登録しなければならず、その“誰かの電話番号”が、ユーザーを通じて運営元に渡ってしまう」という点ですが、この作業をぶつ切りにして見てみると、
(1)“誰か”が Clubhouseを利用したいと思う
(2)すでに登録しているユーザーから招待してもらう
(3)その際、ユーザーは、その“誰か”の電話番号を自分のスマホに登録し運営元にその電話番号を渡す
(4)その“誰か”はClubhouseのユーザーとなる、ということになるのでしょうか(間違っていたらごめんなさいm(_ _)m)
この通りだとすると、確かに運営元が「“誰か”の電話番号」を取得するその瞬間は、その“誰か”の同意を得ていませんが、その後、その“誰か”もClubhouseのユーザーなるのだから、おそらく利用規約等にある「あなたの電話番号を取得します」に事後的に同意したことになるのではないでしょうか。
このことを、日本の平成29年に改正された個人情報保護法に照らしてみるならば、まず、「電話番号」は、その番号だけでは個人情報ではないので、問題ありません、として話は終わりです(本名と電話番号の組合せなら“誰か”を特定でき、個人情報となる場合もありますが、スマホに本名以外で登録されている場合、見ず知らずの第三者にとっては、「日本のここに住んでいるこいつ」と特定することはできませんよね)。
まぁ、この個人情報かどうかという点を無視して進めるに、運営元が「個人情報を利用する目的を本人に通知する、または、ネットなどで公表している」なら、その取得においては問題ありません。要するに、「ユーザーを通じて“誰か”の電話番号が運営元に渡ってしまう」ことが問題として取り上げられていますが、「利用目的」などがウェブ上に掲載された利用規約等で公表されていれば、“誰か”から電話番号を取得するための手続きは適法に行っているということになるわけです。
次に、「運営元が集めた利用データが第三者に利用される可能性」という点ですが、利用規約等に「第三者に提供します」とあれば、本人の同意があるので基本的には問題ないでしょう(オプトアウトの説明は省きます。すみません)。
あとは、ほかの詳しい方が説明しているように、「同意」の対象としての「サービスをパーソナライズ化するためなどに個人情報を活用した際の分析結果をビジネスパートナーと共有すること」が、果たして、抽象的すぎるから問題なのか、漠然としすぎているから問題なのか、ということです。
以上、日本の個人情報保護法によれば、という話でしたが、2018年5月に施行されたGDPRという欧州の個人情報保護制度では「個人情報」にあたる情報の範囲も広いし、「個人情報」取得のルールや、第三者に提供するルールも日本法以上に厳しいので、いろいろと問題なのでしょうね。
最後になりますが、今のアプリ開発は、新しい「アプリ」の本来の機能(ゲーム、生活応援、写真管理などなど)を開発するというよりも、個人の情報や嗜好、どんなウェブサイトを見ているかなどを集めることに注力している、と聞いたことがあります。Clubhouseも、よく考えたら、アプリを使って電話番号を知らない見知らぬ人とお話できる機能にすぎないわけで、主眼は「 個人の情報や嗜好、どんなウェブサイトを見ているか」を集めるためにあるのかもしれません。
(文=編集部、協力=山岸純/山岸純法律事務所・弁護士)
時事ネタや芸能ニュースを、法律という観点からわかりやすく解説することを目指し、日々研鑽を重ね、各種メディアで活躍している。芸能などのニュースに関して、テレビやラジオなど各種メディアに多数出演。また、企業向け労務問題、民泊ビジネス、PTA関連問題など、注目度の高いセミナーにて講師を務める。労務関連の書籍では、寄せられる質問に対する回答・解説を定期的に行っている。現在、神谷町にオフィスを構え、企業法務、交通事故問題、離婚、相続、刑事弁護など幅広い分野を扱い、特に訴訟等の紛争業務にて培った経験をさまざまな方面で活かしている。