アマゾンエコーとGoogle Homeを1年間、自宅で使い倒してわかったこと
日本のテクノロジー製品で話題になっているのが、スマートスピーカーだ。Wi-Fiでインターネットに接続することができ、人工知能を活用した音声アシスタントを搭載する、声で操作することができるスピーカー、と定義しておくとちょうど良いだろう。
もちろんスピーカー単体でのストリーミング音楽再生に対応する上、スマートホーム機器やクラウド上にある自分の情報を音声で調べたり、確認したりすることができる仕組みになっている。
筆者は1年以上前から、アマゾンエコーを導入し、また1年前に登場したGoogle Homeも活用してきた。さらにそれ以上前から、SONOSのワイヤレススピーカーも利用している。
筆者がスマートスピーカーとして利用しているのは、業界を牽引している存在であるAmazon Echoではなく、Google Homeになっている。Google検索のようにいろいろな質問に対して、アプリ(Echoではスキル)を追加しなくても答えてくれる点、スピーカーの品質がちょっと良い点がその理由だった。
スマートスピーカーがある生活の未来とは、どのようなものなのだろうか。またテクノロジー業界は何を狙っているのだろうか。
スマートスピーカーでやっていること
この1年間を振り返ってみて、スマートスピーカーに話しかけて行っていることは、主に以下の3つだ。
・部屋の照明のON/OFF
・ジャンルを指定してのストリーミング音楽再生
・タイマー設定
筆者の自宅にはいくつかのスマートホーム製品があるが、そのうちスマートスピーカーで操作したいものは照明ぐらいだ。それ以外は、設置されていれば自動的に動作してくれるため、操作は必要ない。
本来スマートホームの醍醐味はオートメーション、つまり自動化だ。これまで人が操作して扱ってきたものを、自分でつくったり自動的に学習したルールで自動的に動作してくれるから「スマート」なのだ。
実際部屋の照明も、「日没後に帰宅すると自動的に点灯」というルールと、「日の出から1時間で自動的に消灯」というルールを設定しているため、あまり操作する必要がない。ルールに反して操作した電球を消す際に、部屋を出る前に「OK Google, turn off all lights!」(全部の電気を消して!)と言うだけだ。
また、キッチンに置いてあるGoogle Homeは、料理をする際にクラシックやジャズのように、ざっくりとしたジャンル指定でBGMを再生してもらいたいときに役立ち、また日本人にとってアメリカでの生活で最もややこしいポイントである重さや水の容積の単位換算を声で聞いたりしている。そして、キッチンタイマーとしての役割も、声で呼びかければ果たしてくれる。
初期は、スピーカー品質で選ぶ
筆者が自宅でスマートスピーカー以上に利用しているのは、ワイヤレスに対応するスピーカーSONOSだ。1台は書斎、1台はベッドルーム、そしてもう1台はテレビの下に設定できるバー型の製品を利用している。
SONOSのメリットは、Spotify、Apple Musicなどと連携することができる点だ。これまで、スマートフォンのアプリで提供されるストリーミング音楽を部屋で楽しもうとすると、Bluetoothで音楽を転送して再生する必要があった。そのため、電話がかかってきたり、SNSでビデオを再生しようとすると、部屋のスピーカーで再生されていた音楽も止まってしまう。
SONOSはスピーカー自体がストリーミングと連携するため、スマートフォンアプリの役割は選曲ぐらい。そしてAppleがHomePodを発売するまでは、単体でApple Musicを再生できるのはSONOSだけだった。SONOSははじめから音楽スピーカーとしてつくられているため、非常に高品質な再生を楽しむことができる。小さなBluetoothスピーカーや前述のGoogle Home、Amazon Echoに抱いていた物足りなさはないのだ。
AppleがHomePodを「ホームスピーカー」として打ち出したこともあり、Amazonは第2世代Amazon Echoでドルビーと組んでサウンドづくりに取り組み、またGoogleは音楽再生にこだわったGoogle Home Maxを登場させた。
スマートスピーカーといいながら、初期は音声アシスタントやスマートホームの声によるコントローラーではなく、ストリーミング音楽に最適なスピーカーとして、家の中の地位を確立していくことになる。
声のコンピューティングの未来はあるか
筆者はGoogle Homeを介してGoogleアシスタントをキッチンやリビングで使い、iPhoneやApple Watch、iPad、Mac、Apple TVでSiriを使っている。比較的、声のコンピューティングを多用しているほうだ。
特にApple WatchやApple TVのように、スマートフォンやパソコンのような快適な入力環境がないデバイスにとって、音声による入力は非常に有効だ。声での文字入力やアプリへの命令に慣れてくると、スマートフォンの文字入力も声のほうが素早くなる。もっとも、公共空間では利用が難しいというデメリットもある。
筆者は、スマートスピーカーが、スマートフォンに匹敵する、人々の生活を変革するデバイスに成長するとは考えていない。もしコンピューティングの未来が「音声」であっても、その未来を主導するのは引き続きスマートフォンになると考えている。
その理由は、1000万台を超えてきた普及台数のスマートスピーカーよりも、Androidだけでも20億台がアクティブなスマートフォンのほうが、より多様なライフスタイルにフィットし、より多くの人々に影響を与えることができるからだ。
スマートスピーカーに関するテクノロジー企業大手の争いは、現在主導権を取っているAmazonに対して圧倒的に不利だ。GoogleもAppleも、AndroidやiPhoneといったスマートフォンをコントロールしており、台数や普及の面で、スマートスピーカーがこれらを上回ることはあり得ないと考えているからだ。そしてそのアイディアは、おそらく正しい。GoogleもAppleも、音声アシスタントに対して直接文字入力で質問したり、カメラの画像で検索させるといった、声以外の人工知能アシスタントの活用を取り入れている。
この2社の行動は、声のコンピューティングが未来ではなく、人工知能アシスタントを活用するコンピューティングが未来だ、ということに気づかせてくれるのだ。
仲間をつくるのが得意な人工知能はAmazon Alexa
現代のコンピューティングがスマートデバイスから人工知能へと移行していく。そんなトレンドを見いだすことができる一方で、Appleが取り組んできた「アプリによるエコシステム」での発展を、人工知能アシスタントで実現しているのはAmazonだ。
Amazonの人工知能Alexaにはすでに1万を超えるスキル(アプリ)が開発者によってつくられており、対応するスマート家電をはじめとした製品は増え続けている。さらに、Alexaを内蔵するAmazon製品以外のスピーカーや自動車まで登場し始めた。
エコシステムを築き、拡大させているのはAmazonだ。Googleもサードパーティーの製品やサービスを取り入れ始めているし、AppleもSiriからアプリを操作する仕組みを実現しているが、いずれも音声アシスタントの連携の面で、Amazonを上回るものではない。
問題は、Alexaに対応する、あるいは搭載する製品は、Alexa対応を付加価値にする以外に、ビジネス拡大の手段にはできていない点だ。音声アシスタントが、それらの製品の価値を決めるものではないという意味で、消費者が製品を選ぶ際に重視する要素には「まだ」なっていないのだ。
(文=松村太郎/ITジャーナリスト)