「創り出す人」と「こなす人」の格差は、これからも広がる一方です。人々がどれだけ不平不満を言おうと、法律でなんとかしようと、この流れは止められないでしょう。企業は利益を求めます。利益の一部は税金として国に納められ、また一部は配当として株主に払われます。
国に払われた税金は社会インフラの整備や公的システムの運用、住民サービスの提供に使われますし、配当は退職者に支払われる年金の重要な原資です。このように、会社が利益を出すというのは社会にとって非常に大切なことですから、あなたがもし「会社は儲けすぎ、もっと社員に還元を」と思っていたとしても、なかなかそうはなりません。誰でもできる仕事をしている人の給料はできるだけ低く抑え、会社に利益をもたらす仕事をする人には高い給料を払うのが、もっとも自然かつ健全な企業の姿です。
もし、あなたが現在ホワイトカラーの仕事に就いているとしても、今のままでいられる期間は残り少ないかもしれません。きれいなパワーポイントの資料を自慢したり、エクセルの関数の知識を競ったりしている場合ではありません。創り出す側に行かなければ、この先は本当に暗いと思います。
創り出すには、努めて非日常を経験すること
いま我々の多くは、自分たちが子供の頃には存在しなかった職業に就いています。たとえば、携帯電話ショップの店員、M&Aアドバイザー、スマホゲームのプログラマーなどは比較的新しい仕事です。歴史と伝統のある組織に入った人たちも、その多くは昔は存在しなかった仕事をしています。自動車メーカーで電気自動車の開発、石油会社で電気の販売、警察でサイバーテロ対策など、数え上げればキリがありません。
我々に求められているのは新しいことを学ぶ力、新しい環境への適応力です。「こんなはずだった」「こうでなければならない」という思い込みを捨てなければ、勝負しようとしていたリング自体がなくなってしまうリスクを常に負っているといえます。
適応力がある人とは、「皆ができることができて、かつ皆ができていないことをいち早く習得できる」人のことです。そうなるためには、会社の仕事は定時で終わるようにする訓練から始めましょう。できれば、必要に迫られてそうするのではなく、自分から先に仕掛けましょう。そのほうが絶対に面白いはずです。そして、自分から先に仕掛けるには、新しいものを生み出すことが必要です。
成熟社会における新しいものとは、新しい組み合わせです。新しい組み合わせを考えるには、普段と違った環境に定期的に身を置くことです。私の一番のおすすめは、旅行です。旅行は新しい視点を得るのに格好の活動だと思います。旅行に行くのも、ガイドブックをなぞるようなやり方ではなく、現地の人たちとコミュニケーションし、人と文化を学ぶような旅行をし、そしてそこで気づいたことを実行してみることです。
本稿の最後に、リーズナブルな価格で家具を販売するチェーン「ニトリ」の創業者、似鳥昭雄さんが日本経済新聞朝刊の連載『私の履歴書』のなかで話していたエピソードを紹介しましょう。
似鳥さんが1970年頃に立ち上げた家具のディスカウントストアは、開店当初は飛ぶ鳥を落とす勢いだったのですが、近所に大型家具店ができたところ、業績が悪化し、ほとんど倒産しそうな状況になってしまいました。それはもうネガティブなことばかり考えていたそうです。
そんな日々が続くなか、アメリカの家具店を視察するセミナーの話があり、似鳥さんはわらにもすがる気持ちで視察旅行に参加しました。現地に行ってまず驚いたことは、洋服ダンスや整理ダンスなど日本でおなじみの箱物家具がなかったことです。アメリカの家では、クローゼットの中に組み込まれていたからです。アメリカの家具店では、家具は部屋ごとにしっかりとコーディネートされ、ダイニングやリビングも豪華で美しい。しかも価格も日本の3分の1でした。
参加者は口を揃えて「アメリカと日本は違う世界だね」と言いましたが、似鳥さんは「同じ人間がやっているんだ。日本人も便利さや安さを今以上に求めるはず」と考えたといいます。帰国後の反省会では、仲間と皆で「アメリカ風にマネしてみよう」と意気投合しました。しかし、部屋ごとにイメージに合った家具を開発し、それを低価格で販売することを実行に移したのは、似鳥さん1人だけだったそうです。
(文=山崎将志/ビジネスコンサルタント)